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2020.01.22

高橋留美子『MAO』第3巻 解けゆく菜花の謎と、深まる摩緒の謎


 大正時代に迷い込んだ現代の女子中学生・菜花が、平安時代から妖魔と戦い続ける青年(?)陰陽師・摩緒とともに、謎に満ちた冒険を繰り広げる伝奇ホラーの第3巻であります。ついに発生した大正大震災の混乱の中、ついに明かされる菜花の秘密。その一方で摩緒にも思わぬ因縁の存在が……

 8年前に謎の事故で一度は呼吸を停止しながら復活した少女・菜花。その事故現場に近いシャッター通りから突然大正時代に迷い込んでしまった彼女は、そこで平安時代から妖魔・猫鬼を追い続ける摩緒と出会うのでした。
 秘法を盗み、不老不死の力を得たという猫鬼と、その呪いで不老不死となったという摩緒。しかし何故かその呪いが自分にも影響を及ぼしていることを知った菜花は、現代と大正を行き来して謎を追うことになります。

 そして大正大震災で、妖魔を封じたと言われる要石が崩壊したことを知り、大正時代の摩緒のもとに急ぐ菜花ですが――まさにその時、大震災が発生。周囲が炎に包まれる中、巨大な猫の姿が……


 というわけで、冒頭から物語を引っ張ってきた菜花にまつわる謎の多くが明かされるこの第3巻。
 両親を失った事故で彼女だけ生き残った――いや蘇生したのは何故か。そもそもあの事故は何が引き起こしたのか。事故の瞬間、彼女が見た怪物は何者なのか。その時危篤だった筈が、今は自分を見守っている祖父は何者なのか。そして何故彼女は妖の力と体質を持つのか……

 この巻の前半では、これだけの謎の大半が、震災の炎の中で激突する摩緒と猫鬼の姿と並行して、明かされることになります。
 そのテンポのよさ、そして何よりも謎解きの鮮やかさには、さすがはと感心しつつも、しかしまだ第3巻の時点で(全てが解けたわけではないとはいえ)ここまで明らかになってしまってよいのかしら、と心配にならなくもないのですが――そこはもちろん心配御無用であります。

 ここで明かされるのは、あくまでも主人公の一人である菜花の謎のみ。もう一人の、そしてタイトルロールである摩緒のそれは、これから深まっていくことになるのですから。


 震災の後、荒れ果てた浅草凌雲閣で囁かれる怪異の噂。それに何を感じ取ったか凌雲閣に向かった摩緒たちの前に現れたのは、彼を裏切り者と呼ぶ青年――それこそは、摩緒の兄弟子の一人・百火だったのであります。
 ――しかし、摩緒が陰陽師の修行をしていたのは平安時代ですから、約900年前のこと。猫鬼の呪いで不死となった摩緒は格別、何故百火はこの時代まで生きているのか? しかも彼の場合、摩緒の不死とはまた性質の異なるもののようなのであります。

 これまでも断片的に描かれてきた摩緒の過去。しかしそれはあくまでも断片であり、実は摩緒にとっても欠落の多いものでありました。炎の中で対峙した猫鬼が、自分たちの因縁の裏の事情を示唆する言葉を残したように、考えてみれば不審なことばかりなのですが――その疑いがここで一気に吹き出すことになります。
 果たして摩緒の過去に何が起こったのか、そして彼が戦うべき本当の敵は誰なのか? 菜花の謎が解けたと思えばこんどは摩緒の謎が――いやはや、全く楽しませてくれます。

 そして楽しませてくれるといえば、百火のキャラクターであります。
 作中で菜花にツッコまれるほどの自信過剰ぶりと、それとは裏腹の間が抜けた行動、たぶん本気になれば強いと思うけれどもムラのありそうな実力――こうしてみればこの百火は、作者の作品にはお馴染みのライバル(?)兼コメディリリーフキャラと感じられます。

 考えてみればそれなりにコミカルな場面は多かったものの、結構フラットなキャラではあった摩緒と菜花(特に前者)。それだけにシリアスなトーンであった物語を、百火が引っ掻き回し、さらに混沌とした物語として。
くれるのではないか――そう感じます


 どうやら序章を終えて本当の物語が始まった印象もある本作。この先の物語の拡がりが今から楽しみになるところであります。


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