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2020.01.28

大塚已愛『ネガレアリテの悪魔 黎明の夜想曲』 ファンタジーから伝奇へ――新たなる、本当の物語の幕開け


 19世紀末のロンドンを舞台に繰り広げられる――そして新人の作品とは到底思えぬ完成度の高さに度肝を抜かれた異形のファンタジー待望の続編であります。少女と青年人形による異界「ネガ・レアリテ」を巡る戦いは実は序章に過ぎず――いよいよ本当の敵、そして巨大な秘密の数々がここに明かされるのです。

 偶然訪れた画廊で異界に呑み込まれ、ルーベンスの贋作から生まれた奇怪な魔に襲われたことをきっかけに、美青年サミュエルと出会った男爵家の少女・エディス。
 日本の刀と呪法を用い、人間離れした力で贋作から生まれた異形の魔と対決するサミュエルに救われたエディスは、サミュエルと彼を付け狙う妖人ブラウンとの間の戦いに巻き込まれていくことになります。

 その過程で明らかになるサミュエルの秘密――実は彼が人間ではなく、何者かによって造り出された精巧な人造人間だったことを知りながらも、恐れることなく彼の傍らで戦い抜いたエディス。そして女王の私生児であり、母に殺されたという怨念を抱えて暴走するブラウンは、サミュエルに敗れてネガレアリテの中に消えて……


 という前作を受け、やはり贋作から生まれた魔――今度は絵画ではなく楽器――との戦いから始まる本作。が、それはあくまでも導入部、前作の展開を踏まえたこちらの予想は、完全に――当然ながら良き意味で――裏切られることになります。

 自分の存在が危険をもたらすと、エディスに別れを告げたサミュエル。それを受け入れた彼女は、侯爵家の三男・ヘイズから結婚を申し込まれることになります。
 父を知らぬ私生児である自分を今まで育ててくれた男爵家の人々のため、エディスはその申し出を受けるのですが――しかしヘイズには彼女と、さらにサミュエルと意外な繋がりがあったのであります。

 そして思わぬ自分の秘密に驚く間もなく、彼女に襲いかかる新たなる敵。かつてブラウンが変じた魔の中でも、さらに力を持つ古き血を持つ存在に襲われたエディスを救うべく、強大な敵に挑むサミュエルですが……


 贋作から生まれる魔との戦いを描いた前作において、自分たちもまた一種の「贋作」として――エディスは男爵家の実子ではない私生児、そしてサミュエルは人間ですらない――受け止める姿が描かれた二人。
 本作では、その二人の真実が描かれることとなります。エディスの父は何者なのか、そしてサミュエルは何のために造り出された存在なのか――ある意味物語の根幹に繋がるほどの真実が。

 その大秘密を(物語の比較的早い段階で判明するのですが)ここで語るのは控えましょう。しかし一つだけそれを評するとすれば、前作がファンタジー――我々の世界と隣り合わせの世界に潜む魔との対決であったとすれば、本作は伝奇――この世界で我々が重ねた歴史と平行して、陰の歴史を生き長らえてきた者との戦いである、と表すのが適切と感じます。
 そう、まさかこの物語でこれを持ってくるとは! と好きな人間にはたまらない、そしてどこか懐かしい題材の数々で組み立てられた物語は、紛うことなき一級の伝奇ものならではの興奮を与えてくれるのであります。

 そして驚くべきは、これだけ血沸き肉躍る(ある意味本作に相応しい表現であります)物語であるのと同時に、本作は、極めて美しくそしてプラトニックな、ボーイミーツガールの物語として成立していることでしょう。
 贋作であるという二人を結ぶある種の共通項から解き放たれながらも、なおも強く結びついた二人の絆の目映さ。それはサミュエルに昏い執着を見せる敵の存在とは好一対のものであり――そして人が人以外に抗し、そして人以外と生きるに当たっての、一つの希望の姿としても感じられるのです。

 そしてもう一つ唸らされるのは、大量の情報や怒濤の展開を、くどさや退屈さなしにさらりと読ませる作者の構成力と文章力であります。この点は前作から強く印象に残っていたものですが――本作のそれはそれをさらに上回るものとしか言いようがありません。
 特に物語中盤、本作の――本シリーズの背景となる真実と秘密に関する説明描写の数々を、違和感なくテンポ良く描いてみせる水際だった手腕には感嘆させられるばかりなのであります。


 あえて難を言えば、前作で前面に出ていたネガ・レアリテの存在が、本作では遠景に留まっている点ですが――それは新しい物語の前では、小さいことと思うべきなのでしょう。
 二人の絆の、そして何よりも新たな伝奇世界の誕生を垣間見せてくれた本作。今はその先の姿を見たい、つまりは続編希望! と強く願うばかりなのであります。


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