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2020.02.11

ケネス・オッペル『フランケンシュタイン家の双子』 ヴィクターの知られざる冒険と愛


 正反対の性格ながら固い絆に結ばれたフランケンシュタイン家の双子コンラッドとヴィクター。しかしコンラッドが突然の病に倒れ、ヴィクターは幼なじみのエリザベスらとともに、治療法を知るという錬金術師ポリドリを訪ねる。そこで示された霊薬の三つの材料を求め、ヴィクターらは冒険に乗り出す……

 (おそらく本人は不本意にも)その作り出した存在と名前を混同されながらも、それでもなお史上最も名高いマッドサイエンティストであるフランケンシュタイン博士――ヴィクター・フランケンシュタイン。本作は彼の少年時代を舞台とした語られざる物語を描いたヤング・アダルト小説であります。
 元々ヴィクターの生い立ちや家族については、彼が登場したメアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』に述べられており、本作にも後に婚約者となるエリザベス、親友のヘンリー、二人の弟などが登場するのですが――しかし本作では決定的に異なる点が一つあります。

 それは言うまでもなく、彼の双子の兄・コンラッドの存在――そう、本作において、ヴィクターは双子だったのであります。
 ヴィクターが情熱的で激情家なのに対し、コンラッドは思慮深く冷静――性格的には正反対ながら、妹同然に育ったエリザベスを含め、強い絆に結ばれた三人。当時でいえば非常にリベラルな両親に見守られ、幸せに暮らしてきた彼らの生活は、コンラッドの突然の発病により終わりを告げることになります。

 そしてこのコンラッドを救うためのヴィクターとエリザベス、ヘンリーの冒険行が本作の中心となります。かつて霊薬で人々を救ったという錬金術師がジュネーヴにいると知った三人は、フランケンシュタイン城に封印されていた書庫で見つけた古書を手に、その錬金術師――名はポリドリ(!)を訪ねることになります。
 そしてヴィクターたちは、ポリドリの告げる霊薬の材料(ポリドリ自身、古書の解読に時間が必要なため、材料が一つずつしかわからない、というのがうまい)を求めて、冒険を繰り広げることになるのであります。

 この冒険というのが(少なくとも最初の二つについては)、現実に立脚したものながら、しかし実にスリリングな冒険となっているのがまず楽しい。怪鳥が巣くう夜の森、洞窟の地底湖に潜む古代魚(これ本当にアリなりのかな、というのはともかく)――シチュエーションの面白さと作者の語り口の巧さが相まって、どこか暗くも胸躍る冒険が描かれていくことになります。
 が――中盤に至り、物語はもう一つ別の顔を見せることになります。ヴィクターが、コンラッドとエリザベスが愛し合っていることを知ってしまったことによって。そして自分の中にもエリザベスへの愛があることに気付いたことによって。


 先に述べたように、双子ながら全く正反対の性格であったコンラッドとヴィクター。それだけに兄弟仲は良好であり、だからこそ本作の冒険が繰り広げられるですが――しかしヴィクターの心の奥底には、コンラッドへの拭いがたい劣等感があったのです。
 同じ顔でありながら、何もかも自分より巧く出来、人々に愛されるコンラッド。そんな彼がエリザベスの愛までも得ていると知った時――ヴィクターの中に強い嫉妬と反発心が生まれます。そしてそれは、コンラッドを救う霊薬を自分が手に入れる、作り出すことにより、コンラッドを優越しようという気持ちにまで繋がっていくのであります。

 この辺りのヴィクターの心理描写は、本作が(申し上げるのを忘れていましたが)ヴィクターの一人称で語られるだけに、より生々しく、やりきれない――そして同時によく理解できるものとして感じられます。
 そしてそんなヴィクターの姿――すなわち、愛を求め、そして何よりも自分が自分自身として認められることを求める姿は、彼が後年生み出すことになるあの怪物の姿に重なるものがある、というのは牽強付会に過ぎるでしょうか?


 そんな彼の冒険(最後の最後までサービス精神に溢れたサスペンス!)と魂の遍歴の結末――それはある意味初めからわかっていたところではあります。
 しかしあのフランケンシュタイン博士の原点として、そして何よりも一つの少年期の終わりとして――本作の結末は、大いに頷けるものがあるのです。

 なお、本作は二部作とのこと。よりファンタジー色が強まるという続編で何が描かれるのか――そちらも読んでみなければならないでしょう。


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フランケンシュタイン家の双子 (創元推理文庫)

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