細川雅巳『逃亡者エリオ』第2巻 新たな逃亡劇、そして史実という大敵登場!?
中世カスティージャを舞台とした冒険活劇待望の第2巻であります。無実の罪を着せられた少女・ララと地獄の監獄帰りの好漢・エリオの逃避行は思わぬ形で史実と繋がり、もはや戦いは二人だけのものではなく、さらに大きな歴史の一部に……
騎士の家に生まれ育ちながら殺人の汚名を着せられ、一転犯罪者として処刑を待つばかりとなった少女・ララ。成り行きからそんな彼女を救ったのは、ヘル・ドラード監獄で千人抜きの偉業を達成して自由の身となった青年エリオでありました。
そしてララの父の友人である騎士・ゴルディの元に向かう途中、彼女が知った真実――それはララが先の国王・アルフォンソ11世と愛妾レオノールの間に生まれた娘であり、彼女の命を狙うのは正妻の子である正義王・ペドロ1世だったことでした。
そしてゴルディのもとにはララを追ってきた警吏長バルド、暗殺者デボラだけでなく、ペドロ1世の近衛兵が乱入。大混戦の中でエリオとララ、ゴルディだけでなく、バルドとデボラも一緒に逃亡することになります。
そしてゴルディたちが庇護を求めた先は、ペドロ1世と対立する先王とレオノールの子・トラスタマラ伯エンリケ――すなわちララの兄だったのですが……
というわけで、「逃亡者」に相応しく(?)一箇所に留まることなく突っ走りまくる物語が展開する本作。この巻に入り新キャラクターが幾人も登場しますが、注目すべきはそのほとんどが歴史上の人物であることでしょう。そしてその最たるものが、このエンリケであります。
これはある意味ネタバレになってしまいますが、エンリケこそは後にペドロ1世と王位を巡ってフランス・イングランドをも巻き込んだ戦争(第一次カスティージャ継承戦争)を繰り広げたライバルと言うべき人物。その意味ではペドロ1世に並び、本作における実在の人物としては最重要キャラと言えるかもしれません。
もっとも本作のエンリケは、自分の身長よりも大きな大剣を振り回して敵を胴切りにしてしまう熱血漢という設定で、いかにも本作らしいアレンジがなされているというべきでしょう。
ちなみに本作、毎週のようにモブキャラの生首が飛んでいたものが、彼が登場してから胴切りもレパートリー(?)に加わることになったのですが――そのエンリケの登場シーンは、本作でも相当のインパクト。必見であります。
しかし問題は、このエンリケ、さらにはゴルディにバルド、デボラという仲間が加わり、エリオとララの逃避行が孤立無援という印象がなくなったことでしょう。
特にララの兄であるエンリケは上述のとおり権力者の側に立つ人物であり、その意味ではもうララは逃げる必要がないのでは――とも思うのですが、この巻の後半ではその辺りをうまく解消して、別の意味でエリオたちは「逃亡」するのは巧みなところでしょう。
もっともそこでもエリオの出番はちょっと少なめ――何しろこの巻のラストでは、エリオがモブ兵退治をしている間にゴルディとデボラが宿命の敵と対決することに――で、その辺りがちょっと不安にならないでもありません。
もちろんエリオの飄々としたキャラクターは健在で、要所要所で頼もしさを発揮してくれるのですが――さてこの先、史実という大敵に呑み込まれることなく、エリオたちがいかに活躍してくれるのか、ここはお手並み拝見といったところでしょう。
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