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2020.02.18

『無限の住人-IMMORTAL-』 十九幕「鏖 みなごろし」

 常陸に向かい江戸を離れた逸刀流一門。天津からそれを聞かされた凜は彼らを追って万次とともに江戸を離れ、さらに六鬼団、偽一と百琳も続く。しかしその隙に天津と凶たちはわずか四人で江戸城大手門に現れ、正面から城内に突入、警備の侍たちを斬って斬って斬りまくる。果たしてその目的とは……

 最終章も2話目に入り、いよいよ本来の物語が動き始めたというべきか――前半に各勢力の道中双六のスタートが、そして後半に天津たちの江戸城突入が描かれ、一気に盛り上がる今回
 冒頭、町で偶然天津と出会った凜が、あの風体でその辺を歩き回ってる六鬼団(鬼面の雑兵はもちろんのこと、中国感溢れる弩馬心兵のビジュアルも相当のもの)から彼を匿う――という、物語的にも作画的にも相当雑な展開から始まるのには不安になりましたが、しかし各勢力がそれぞれの思惑を秘めて動き出す姿には、やはり胸躍るものがあります。

 まず、以前一緒に加賀に行ってから「逸刀流のことが一番わかっているのは私」と言わんばかりのノリの凜は、天津から逸刀流のこの先を見届けてほしいと言われてすっかりその気になり、万次とともに出発するわけですが――今のところ戦う相手もおらず、万次はダラケまくり。
 一方その逸刀流はといえば、阿葉山と果心居士の老人コンビが、それと正反対の逸刀流新規参入組の若いのたちを引率して一足先に常陸へ。見るからにすぐ死にそうなイキった発言の若侍たちに憤りを隠せない阿葉山ですが、しかしそれも逸刀流のため、それを受け継ぐ若い芽のため――という隠しきれないツンデレぶりに、若い衆も感涙であります。

 そして六鬼団の方は、本隊ではなくまずは忍びの目黒とたんぽぽが、潜入先の宗理先生に泣く泣く別れを告げて先行――と、ここでの目黒の思いこみの強さといい、隠密では先輩である宗理に完璧に正体バレていたことといい、最終章では数少ないコミカルな展開が楽しい。(初代万次とは思えぬ)宗理役の関智一の力を抜いた演技も愉快であります。
 さらにあんなの(吐鉤群)でも恩人と考える義理堅い偽一は、ただ一人助っ人として後を追おうとして、百琳には生活費を置いて残していこうとするという相変わらずの思いこみの強さを発揮。当然百琳にはハゲ呼ばわりで怒られ、彼女も同行することになります。

 そんなわけで揃い踏みの各勢力ですが、今回はそれぞれの旅立ちがメインで、目黒とたんぽぽが英の配下の女忍衆「懸巣」に襲われて傷を負ったところを、これまた偶然通りかかった凜と万次が助けるという展開はあるものの、本格的なバトルはなし。むしろここでは、前非を悔いて旅立った歩蘭人が二話ぶりに(早いな!)登場してたんぽぽの治療に当たるのが、最終章らしいオールスター感を感じさせます。
 しかし歩蘭人、万次の不死には意思が感じられる! と説得力があるようなないようなことを言っていますが、人間がカワウソに見えるような奴の言うことだからなあ……


 しかし後半ではうって変わって剣戟の連続――逸刀流は全て江戸から離れたと見せかけて、こともあろうに江戸城に突入した天津・凶・馬絽祐実・怖畔がたった四人で大暴れ。太平の世に腑抜けた侍たちをバッサバッサと斬りまくり、まさしく屍山血河というしかない状態を作り出すことになります。
 冷静に考えると人斬りシーンが少なかった天津も楽しそうにその鈍器みたいな刀で相手をぶっ倒し、凶と馬絽も特異な得物で大暴れ。弓矢には怖畔が射手のところに飛び込んできた目にも留まらぬ早業(ずるい)で叩き斬って――大番組頭と小姓組頭も出オチ状態で一刀両断(にしても大番組頭の雲霧仁左衛門、やっぱりそのままの名前で出てくるのだなあ……)、新番組頭の英を捕らえて、衆目の前で辱めを与えるのですが……

 しかしこの大暴れの理由というのが、幕府のための牙となるつもりが、裏切られたので幕府にとっての毒になります。一度毒に犯されたら次はきっと強くなるよ――という勝手かつはた迷惑な理屈だったのは、それはそれで天津らしいと言うべきでしょうか。もちろん先に手を出してきたのは幕府の方ですが、何はともあれここまでやってのければ、それはそれで痛快と言うべきかもしれません。

 とはいえ、英を人質にして城外まで逃れたものの、幕府がこれをただで済ませるはずはありませんが――いよいよ次回から各勢力の激突が開始されるのでしょう。素直に楽しみであります。


 しかし怖畔のアクション、これで終わりか――ロイハーロイハーは見れなかった。


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 無限の住人

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