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2020.02.10

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第19巻 人と人の絆の勝利 そして地獄の始まり


 単行本も売り切れ続出となり、ほとんど社会現象化という状況の『鬼滅の刃』。その最新巻は、無限城決戦の真っ最中――前の巻に引き続き、上弦の弐・童磨、そしていよいよ出陣の上弦の壱・黒死牟との死闘が展開されることになります。

 壮絶な戦いの末、自らの失われた過去を思い出した猗窩座の自決により、辛くも勝利を収めた炭治郎。残るは上弦の壱・弐と無惨ですが――この三人が飛び抜けた実力を持つ存在であることは言うまでもありません。
 そして始まるのは童磨とカナヲ、伊之助の同期コンビの対決ですが、師に当たる蟲柱のしのぶを眼前で喰われたカナヲはともかく、ここで伊之助参戦とは少々意外――と思いきや、実は童磨は伊之助の母の仇(そして彼が孤児となる理由を作った相手)と、二重に絡みあった因縁が展開することになります。

 しかし、同期組の中でも屈指の実力者であるカナヲ、そして我流ゆえ読めない剣の使い手である伊之助をしても童磨はあまりに強大な相手。いやそれどころか、童磨の側は鬼殺隊の戦力の情報収集を行う余裕すらある状態ですが――しかしここで意外な事態が発生し、一気に戦いの行方は混沌とすることになります。

 この辺りの展開は、連載時に読んだ時には、童磨がいわゆる舐めプ状態であったことや、ここで起きる事態がある意味(読者にとっては)想定内の内容であったこともあって。ずいぶんあっさりと決着がついた――という印象だったのですが、しかし今回単行本でじっくり読んでみると実にいい。
 師ほどではないにせよ、諸刃の刃である奥義を発動する(その姿が普段の彼女に似合わず、むしろ恐ろしげなのが実に本作らしい)カナヲ、そして戦いの中で母の愛を知る(=人間性を取り戻していく)伊之助と、それぞれの姿が実にエモーショナルなのです。

 さらに、人と人の絆で結ばれた二人と、その絆の存在を理解できない童磨という対比が実によく――そしてその人の側の代表が、人としての感情の表し方を知らなかったカナヲと、人としての情愛の存在を知らなかった伊之助である点が、何とも心憎いではありませんか。

 さらにまた鬼滅名物の死の間際の追想も、童磨らしいどうしようもなさで――相変わらず様々な方向にこちらの感情を振り回してくれる、本作ならではの戦いであったと感じます。
 そしてその後、微妙に緊張感が薄れる恋柱&蛇柱と新上弦の肆・鳴女との戦いの様が軽く描かれますが――楽しいのはここまで。以降は地獄が続くことになります。


 事ここに至れば、無惨を除けば、残るは上弦の壱・黒死牟のみ。しかしこの黒死牟、これまで戦闘場面はほぼなかったものの、猗窩座や童磨を相手にせぬ風格と、何よりも鬼殺隊――その始まりの剣士たちとの繋がりを予感させるビジュアル(ビジュアルといえばこの黒死牟、人によっては正視できないほど怖い)と、強大かつ物語的にも重要な敵としての存在感を強く強く感じさせる怪物であります。

 そしてこちらのそんな予感は、早々に現実のものとなります。柱の中でも一対一の対決で上弦を倒した屈指の実力者であり、そして始まりの剣士の子孫である霞柱・無一郎との対決――いやほとんど小手調べによって。
 さらにかけつけた不死川玄弥も全く歯牙にもかけぬ黒死牟。それもそのはず、彼こそは始まりの剣士の一人であり――鬼でありながら月の呼吸を操る最強の剣士なのですから。

 そして「弟」の危機に、ここぞとばかりに駆けつけ、さらに思わぬ奥の手を(これによって、以前彼が行った禰豆子への試練の重みが今更ながらに理解できるのも心憎い)繰り出す不死川実弥、そして鬼殺隊最強の男である悲鳴嶼が駆けつけ、現時点の最大の戦力が揃うことになりますが――それでも全く安心できないのが恐ろしい。
 (作画しているだけで大いに心身を痛めつけそうな)月の刃を所狭しと放つ月の呼吸の前に、二人の柱もあっという間に傷つき、その一方で黒死牟はそれぞれの剣士の技を吟味する余裕すらあるとは――これほどまでにどうしたら倒せるのかわからない相手は、久しぶりであります。

 無惨の前の最強最大の壁に対し、二人の、いや四人の剣士は如何に立ち向かうのか――まだまだこの地獄はこれからが本番であります。


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