« 島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 パロディとパスティーシュが生み出すハーモニー | トップページ | 『無限の住人-IMMORTAL-』 十八幕「鬼哭 きこく」 »

2020.02.07

南原幹雄『北の黙示録』下巻 史実の枠を超える全面対決、そして凄絶な結末へ


 奥州六藩同盟と、幕府の秘密諜報機関・中町奉行所との死闘もいよいよ佳境。幕府との緒戦に実質勝利を収めた伊達藩に対し、潜入を試みる赤石百次郎と配下たちが見たものは、そしてついに始まった全面対決の行方は――驚愕の結末が待ち受けます。

 突如として老中の職を辞した松平定信の命により、伊達をはじめとする南部・津軽・上杉・佐竹・二本松の奥州六藩の探索に当たることとなった中町奉行所与力の百次郎。はたして伊達家は次々と不審な動きを見せ、百次郎たちは伊達家に仕える蔵王山伏・伊達山岳党と死闘を繰り広げることとなります。
 一連の六藩の動きの背後に存在していたもの――それははるか百五十年前の伊達政宗の代、当時の六藩藩主によって結ばれた六藩同盟の盟約。徳川幕府成立以来絶えず圧力をかけられてきた奥州の諸藩は、その怨念を胸に、一朝事あらば団結して立ち上がるべく、密かに牙を研いできたのであります。

 さらに幕府との全面対決に向け、江戸屋敷の藩主・斉村の正室と子を密かに脱出させるべく動き出した伊達藩。それを阻むべく行動する百次郎たち中町奉行所の面々ですが、何段構えともなっている伊達藩の策の前に苦戦を強いられることになります。
 さらに、逆に百次郎の近くにまで迫る伊達藩の暗躍。そして百次郎の前に、謎の敵の影が……


 というわけで、下巻(後半)に入り、いよいよ本格化する中町奉行所と奥州六藩同盟の激闘。上巻は相手の出方や真意を窺う探索や情報収集が中心ということもあって比較的地味な展開が続きましたが、六藩同盟の存在とその目的、さらには後ろ盾の存在が中盤で明かされ、それ以降は全面対決に向かい、物語は加速度的に盛り上がっていくことになります。

 この下巻の前半では、伊達家の展開する藩主正室脱出作戦と、それを追う百次郎たちの攻防戦がメインとなりますが、冒頭からここまでやるか!? と驚くような、伊達の暴挙としか言いようがない行動が描かれ、物語はいよいよのっぴきならない局面に突入したことを否応なしに感じさせてくれます。
 そして後半ではいよいよ幕府と六藩同盟の全面対決にエスカレート。もうここまで来ると時代小説というより架空戦記の部類に入ってしまうのでは――と心配になるほどの展開に加え、さらにここに来て、中町奉行所の手の内を知る謎の敵が出現――と、最後までだれることがありません。

 実はこの謎の敵については、勘の良い方であれば正体はすぐにわかる、というより極端なことを言えば、その存在が描かれる前から登場は予測できるものではあったのですが――しかしその行動原理は、この時代背景ならではの説得力が十分であり、単なる暴挙に終わらない六藩同盟の行動に一定の説得力を与えるものとして納得できます。
 それに比べると百次郎の行動原理は、「お役目」だから以上のものが感じられない――もっとも、伊達側も大義名分の下に大変な暴挙を行っているわけであり、このお役目の重要性も言うまでもないのですが――ところがあります。そこは体制側の視点にならざるを得ないスパイものの難しさというものが感じられないでもありませんが……


 しかし本作には、結末に最大の衝撃が待ち受けています。上で述べたとおり、既に史実の枠をはみ出しかねないほどにエスカレートした物語に、如何に決着をつけるのか――その方法は確かにそれ以外ないというものなのですが、まさかこうなるとは! と仰天必至の展開なのです。
 エスカレートにはエスカレートをぶつけるというか――まさしくタイトル通りの黙示録的風景にはただ圧倒されるばかり、その後の歴史を描くラスト数行の内容も相まって、その凄絶さと裏腹の、ある種の虚無感すら感じさせる結末であります。

 あるいはこれも、歴史の陰で命に基づいて動くスパイものとしては相応しい結末なのかもしれませんが……


『北の黙示録』下巻(南原幹雄 講談社文庫) Amazon
北の黙示録(下) (講談社文庫)


関連記事
 南原幹雄『北の黙示録』上巻 伊達vs幕府、マクロスケールの伝奇開幕

|

« 島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 パロディとパスティーシュが生み出すハーモニー | トップページ | 『無限の住人-IMMORTAL-』 十八幕「鬼哭 きこく」 »