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2020.02.03

忠見周『幕末イグニッション』第2巻 そして只三郎の辿った道


 日本近海に沈んだ三百六十万両の金塊を巡り、後に京都見廻組与頭として竜馬を斬る男である、小太刀日本一・佐々木只三郎の活躍を描く物語もいよいよクライマックス。怪物クラスの剣客たちが次々登場する中、只三郎の選ぶ道は……

 竜馬が近江屋で斃れる13年前――その小太刀の腕を持ちながら、しかしそれだからこそ己のなすべきことが見えず暴れ回っていた只三郎。彼は、牢の中で出会った佐久間象山から三百六十万両の黄金の存在を聞かされ、唯一その在処を知る異国の少女・白菊を託されることになります。
 しかし早くもその莫大な黄金を巡り動き出す諸勢力。その一つ、豪剣士・榊原鍵吉とその師である男谷精一郎一派に襲撃を受けた只三郎は、大胆にも白菊とともに男谷道場に乗り込むことに……


 そんなわけで第1巻の時点でいきなり超大物と激突することになった只三郎ですが、その後の物語も怒濤の如く突き進んでいくことになります。

 かつてない強敵を前に死地に飛び込んだものの、白菊を守るために男谷との取引に応じ、黄金を狙う勢力の一つである水戸家の藤田東湖を斬ることとなった只三郎。
 しかしその東湖のもとには黄金の存在を嗅ぎつけて坂本竜馬がすり寄り、さらにその師の師に当たる千葉周作もまた、水戸側で動き出すことになるのでした。

 かくて激突する男谷精一郎と千葉周作、二人の大剣豪。そしてそれと平行して、只三郎は水戸の暗殺者・芹沢鴨と対峙することになります。
 怪物対怪物、無頼対無頼の対決の行方は……

 と、只三郎対榊原、只三郎対男谷という時点で堪らないマッチメイクのところに、さらにとんでもない怪物たちが加わり、否応なしに盛り上がる本作。

 特に本作の鴨は、実は女! という意外すぎる設定で、水戸藩で暗殺者とも忍びとも言うべき陰働きを担当するという設定に相応しく、何とも得たいのしれぬ存在感を持っているのがユニークであります。
 それでいてやっぱり(?)酒乱なのですが、そんな彼女に絡むのが、只三郎の悪友である八郎――ビジュアル的にも腕前的にも伊庭ではないよなあ、と思えば、もう一人の「八郎」だったのに仰天!――というのも、何とも面白い展開です。

 しかし何よりも圧倒的なのは男谷と千葉、二人の怪物の頂上決戦でしょう。江戸後期の剣豪ファンであれば誰もが夢見るであろうこの両雄の真剣勝負を、本作は真っ正面から描いてくれるのですが――いやはや、その迫力たるや、さすがに只三郎もこの二人の前には霞むとしか言いようがありません。


 そんなわけで盛り上がりに盛り上がった本作ですが――急転直下の展開で、結末を迎えることになります。
 これだけ火力強めで物語が盛り上がり、あの幕末の有名人も(いかにも本作らしいビジュアルで)登場して、これからというところで――というのは、まあ事情があるのだとは思いますが、その結果、只三郎の辿る道が、あまりに哀しいものとなってしまったのを何と評すべきでしょうか。

 確かに史実との整合性を考えれば、この道しかなかったとも言えるのですが、自分が何者かになるため、荒ぶる血のままに戦ってきた若者が選んだ道――それは恐ろしいほどに孤高で、ある意味気高い道ではあるのですが――の向かう先は、あまりに哀しかったとしか言いようがありません。
 正直に申し上げれば、もう少し別の描き方はなかったのか――とも。

(描き方といえば、只三郎を描く上で避けては通れないあの出来事でベタなパロディが唐突に飛び出すのもどうかと思うのですが――それがある切ない展開に繋がるのには複雑な心境に)

 只三郎が、彼の周囲の曲者たち怪物たちが、その持てる力を全開にして暴れ回る姿を最後まで見せて欲しかった――それが偽らざる気持ちであります。


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