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2020.03.30

永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第21巻 バラエティに富んだ妖尽くしの楽しい一冊

 久々に新刊登場の『猫絵十兵衛 御伽草紙』は、表紙の一つ目小僧と一つ目猫から察せられるように、妖が登場するエピソードばかりが収められた全9編。妖ばかりと言っても、もちろんバラエティに富んだ内容は変わらず、今回も楽しい一冊であります。

 鼠除けの猫絵を生業とし、人ならぬモノの存在を見聞きする力を持つ青年・十兵衛と、強力な妖力を持つ元・ニタ峠の猫仙人にして、今は酔狂にも十兵衛の相棒として江戸で暮らすニタ。この一人と一匹を、時に主人公に、時に狂言回しとして、人と猫と妖の物語を描いてきた本作も、もう第21巻となりました。
 冒頭に述べたように、この巻は妖尽くしというべき内容が収録されています。以下のように……


 茶太郎・ブチ・ハチのお馴染み猫又三匹が、おいてけ堀よろしく水中から呼びかける怪と出会う「おいてけ堀猫」
 昼寝している最中に異界に迷い込んだ上、片耳がなくなってしまった濃野初風の愛猫・小春の冒険「小春猫」
 いなり寿司売りとともに、大店のお嬢様に惚れてしまった絵師志望の猫又・ムクの奮闘を描く「恋の仇猫」
 病弱で祭見物に行けない子供のために、猫丁長屋の子猫・タケと十兵衛が一肌脱ぐ「祭猫」
 年経りて通力を得た破れ寺の住職の猫が、住職を助けるために思わぬ策を授ける「火車猫」
 大晦日の晩、謎の相手から逃げようとする猫又三匹衆と百代に十兵衛が巻き込まれる「掛け取り猫」
 前話に続き、借金のカタに大森の化け物茶屋で働くことになった四匹の姿を描く「化物茶屋猫」
 タイトルのとおりニタの賑やかな日常を描いた8ページの掌編「ニタの、たまの日常」
 ニタ峠の雛祭りに招かれた十兵衛が、川の化生とそれに顔と大切なモノを奪われた女性と出会う「ひいな猫」


 ご覧のとおり、奇怪な化け物との対決あり、可愛らしく不思議な奇譚あり、泣かせる猫と人のドラマあり――一口に妖といっても様々ですが、それでいて、どれも本作「らしい」物語に仕上がっているのに感心させられます。

 例えば「小春猫」――小春の夢物語のようなファンタスティックなお話ですが、小春が迷い込んだ様々な妖が人間同様の暮らしを送る世界の姿は、ユーモラスでしかし妙に生々しく、我々の世界とは似て非なる空気を感じさせる異界感が素晴らしい。
 この辺りの異界描写は実は作者の得意とするところですが、実在した大森の化け物茶屋に、実は人用の表と化け物用の裏があったという設定の「化物茶屋猫」も、作者ならではの世界観を感じさせるものがあります。

 また、一見ユーモラスで温かい絵柄でありつつも、本気で恐ろしい化け物を描けば、ドキリとするほど恐ろしいのも作者の筆の力。
 本書でいえば、「火車猫」のクライマックス、死人を地獄へ攫っていく火車の大暴れの場面などは、江戸の絵草紙的な味わいを持ちながらも、荒々しく迫力ある絵柄に驚かされるのです。

 ちなみにこの「火車猫」、物語的には有名な昔話「猫檀家」にほとんど忠実な内容なのですが――この妖怪描写の凄まじさと、それとは裏腹の人と猫の細やかな交流の描写(和尚が唱える大悲心陀羅尼の一節が別の意味を持つラストが巧い!)に泣かされる、本書でも屈指の名編と感じます。
 また名編といえば「祭猫」も、互いをいたわり合う両親と子の情(冒頭で描かれる母の表情が何とも見事)に、普通の子猫であるタケの可愛らしさと、十兵衛の猫絵が生み出す優しい奇跡が絶妙のバランスで混ざり合って、不思議人情系の実にグッとくるエピソードとして必見であります。


 と、妖好き、不思議好き、そしてもちろん猫好きには、語り出したら止まらなくなってしまうような充実した内容の本書。

 連続ものではない連作もので、これだけの巻数を重ねながらも、このバラエティとクオリティとは――といつもながら驚かされるのですが、しかしこの点についてはこの先も変わることはないだろうと、無条件に信頼してしまうのであります。


『猫絵十兵衛 御伽草紙』第21巻(永尾まる 少年画報社ねこぱんちコミックス) Amazon


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