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2020.03.31

高橋由太・山田彩人・松尾由美『御城の事件 〈東日本篇〉』(その一)

 二階堂黎人編による光文社文庫の書き下ろし時代ミステリアンソロジー――以前全2巻で刊行された『忍者大戦』に続き、こちらも全2巻で登場の『御城の事件』の1巻目であります。タイトルの通り「城」を舞台にした個性的な全5話から成る本書の収録作品を、一作品ごとに紹介していきましょう。

『大奥の幽霊』(高橋由太):江戸城
 育ての親である伊賀者の組頭から、大奥詰めを命じられた弥助。将軍直々に受けたという「大奥で泣いている赤子の幽霊を成仏させる」という命に戸惑いを隠せない弥助ですが、綱吉の側室であったお梅の局の下で探索に当たることに……

 巻頭を飾るのは、城の中の城というべき江戸城を舞台にした、本書で唯一の時代小説プロパーと言うべき作者の作品。作者がデビュー前、別ペンネームで本格ミステリを発表していたというのは恥ずかしながら存じ上げませんでしたが、本作を読んで納得できました。

 いかにも作者らしいと言うべきか、本作は基本的にはちょっとライトな味つけで展開。
 そもそもの依頼から大奥に入ってからの展開(特に中盤の突然のお梅の局の提案を受けてのくだり)まで、ちょっと無理があるようにも思えたのですが――しかしラストに至り、ガラリと全ての構図が入れ替わり、全く異なる物語が浮かび上がるのには驚かされました。

 特にライバル局の言葉に込められた意味など唸らされるところで、登場人物が皆ものわかりが良すぎる感がなきにしもあらずですが、非情の城の中心に描かれる人情の姿が心地よい作品です。


『安土の幻』(山田彩人):忍城
 焼亡した安土城の正確な姿を記したという襖絵を模写するため、大志城を訪れた絵師の芳長。しかし城は秀吉軍に水攻めを受け、芳長は城の中に閉じこめられてしまうのでした。
 そこで自由奔放な盲目の美姫・澪姫から、城の抜け道の存在を聞かされる芳永。しかし抜け道も水に没しているはずなのですが……

 秀吉の北条攻めの際に水攻めを受け、それでも落ちなかったことで知られる忍城をモデルにした舞台で描かれる本作は、ヒロイン・澪姫の存在感が強烈に印象に残ります。
 何しろ、盲目ながらそれを補うように一度聞いたものは決して忘れぬ記憶力を持ち、そして美しい容姿に似合わぬひねくれ者ぶりで、ちょっとツンデレ気味――盛りも盛ったりというキャラですが、しかしそれだけに非常に魅力的で、彼女に振り回される芳永に同情したり、羨ましくなったりであります。

 しかし本作はもちろん城を題材にしたミステリであり、その謎の一つは、如何にして水攻めされている城から脱出するか――すなわち水没している抜け道から、如何にして水を抜くか、というもの。これだけでも十分に面白いのですが、それだけでは終わりません。
 そう、本作で描かれるのは、タイトルに冠されたもう一つの城の謎。果たしてその謎の答えは――いやはや、思わぬ伝奇テイストに仰天であります。

 ……と思いきや結末に落とされるもう一つの爆弾。いやたまりません。


『紙の舟が運ぶもの』(松尾由美):川越城
 主君の奥方の命で、城内の庭のの鳥の姿を記録することになった茶坊主の隆信。彼は鳥を追う中、遙か昔から城にいる、人ならざる女の子と出会うことになります。
 そんなある日、城の堀に浮かぶようになった紙の舟。それは町娘が城侍にたちの悪い悪戯を仕掛けられたのと同時期に始まったというのですが……

 実は本書で一番驚かされたのが本作――時代小説のイメージのない作者(というより本作が初時代小説)だけに、どのような作品を、これがと思えば、意外な展開と心温まる物語が見事に融合した時代小説でありました。

 まず主人公が城の茶坊主という時点でユニークなのですが(作中で何度か触れられる、目立つ故に目立たないという特性が生きてくる展開が見事)、その彼が遙か昔から城に棲む精霊と出会い――という導入の時点で引き込まれる本作。
 しかしそこから物語にはタイトルの「紙の舟」が絡み、予想もしなかった意外な方向に展開していくことになります。

 そこで描かれるのは、「城」に象徴される権威に挑もうとする弱者の意気地であり――なるほどこのような物語だからこその主人公の設定であったか、と納得させられるのです。
 一見日常の謎めいた紙の舟の謎も見事な切れ味であるところに、結末の後味もよく、名品と言うべき作品であります。


 残り二作品は次回紹介します。


『御城の事件 〈東日本篇〉』(二階堂黎人編 光文社文庫) Amazon

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