安達智『あおのたつき』第2巻 絢爛妖異なアートが描く、吉原という世界と人々の姿
浮世と冥土の境に存在する「鎮守の社」で迷える魂を導く遊女「あお」の姿を描く時代ファンタジー『あおのたつき』第2巻であります。この巻でもあおが出会うのは、強い想いから異形となった悲しい魂たち。その来し方行く末とは……
生前は吉原は三浦屋の花魁として鳴らしながら、何故か命を落とし、少女姿で浮世と冥土の狭間にある鎮守の杜に迷い込んだあお(濃紫)。成り行きから社の奉公人として、宮司・楽丸の手伝いをすることになった彼女は、強い想いを抱えて社に、冥土の吉原に現れる魂を導くことになります。
そんなある日、社に現れた打ち掛けを被った奇怪な悪霊。その悪霊を追ってきた謎の男・恐丸は、あおを悪霊と呼び、断罪しようとするのですが……
そんな前巻ラストから続くエピソード「指人形」に始まるこの第2巻。実はこの恐丸、楽丸と同じく冥土の吉原の稲荷社の宮司なのですが――しかしながら悪霊となった者にも慈悲の心を見せる楽丸とは対照的に、悪霊と見るや断罪せんとする、その名の通りの(?)恐ろしい男であります。
何とかこの恐丸の手から逃れたあおですが、しかし彼女の生業はむしろこれから――そう、冥土の吉原を騒がせた悪霊、豪奢な打ち掛けを羽織り、その下から獣めいた脚を晒した悪霊を導かなければならないのですから。
見るからに恐ろしく、そして凶暴なこの悪霊。しかし、悪霊は誰一人として生まれながらにそうであったはずもなく、そうなった理由がある――悪霊たちとは吉原の女としていわば「同胞」であるあおが、彼女しかできないやり方で、憎しみや悲しみに凝り固まった心を溶かしていく姿は、このエピソードでも健在であります。
そして続く「六角箱」に登場するのは、何と実在の人物である山田朝右衛門吉睦――の死後の姿。あの首斬り浅右衛門の五代目(にして初めて「朝右衛門」を名乗った人物)であります。
それにしても罪人の首を斬り、刀剣の切れ味を試してきた彼が何故冥土の吉原へ――と思えば、彼が生前に斬首した遊女の小指が幾度も怪事を起こし、それを楽丸に預かっていてもらっていたというのですが……
と、このエピソード、現代人の目から見ればドン引き間違いなしの「心中立て」――遊女が真の心を誓って小指を贈るという風習を題材とした、ある意味本作ならではの物語ですが、そこに山田朝右衛門を絡めるという趣向が実に面白い(という表現は不適切かもしれませんが)。
そしてそこで描かれるもの、怪事を引き起こしていた遊女の無念の源が、前話同様男の不実・非道――だけではない、という捻りも巧みに感じます。
(さらにそこに、男の不実と表裏一体のある想いがあった、というのも巧い!)
また嬉しいのはこの朝右衛門吉睦、次のエピソード「廓歩き」にも引き続き登場するのですが――さて始まったばかりのこのエピソードがどのように展開していくかは、次巻のお楽しみとなります。
というわけで、絢爛かつ異妖なアートの見事さと、浮世と冥土を通して「吉原」という世界、そしてそこに生きそして死んだ人々の想いを描くストーリーの確かさは、この巻でもたっぷりと描かれる本作。
よくよく目を凝らすと、背景にはTwitterでお馴染みのあのキャラクターが隠れていたりするのもまた愉快なところで、様々な魅力に溢れた作品であります。
それにしても、楽丸と恐丸の社がそれぞれ浮世の稲荷社と対応するのであれば、あと三人の宮司が登場することになるのでしょうか。これはまあ、本筋には関係ない関心事ですが……
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