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2020.04.01

門前典之・霞流一『御城の事件 〈東日本篇〉』(その二)

 二階堂黎人編の「城」をテーマとしたユニークな時代ミステリアンソロジー第1弾の紹介、後編であります。残る2編は、これぞ本格ミステリ、と言いたくなるような、シチュエーションも謎解きも凝った物語であります。

『猿坂城の怪』(門前典之):松本城
 地震によって屋根瓦や石垣が崩落し、復旧作業が進められる猿坂城で起きた奇怪な事件――城の姿を記録していた絵師が、堀の上に途中までかけられた橋の上で殺害され、しかしその時橋には、被害者以外の人間は存在しなかったというのです。
 そして事件の調べの中、堀に子連れの河童が出没した、橋の上の椅子が落とされていた、放置されていた石垣の石が増減していたなど、奇怪な出来事ばかり耳にする目明かしの錠七。彼は瓦職人の伊蔵に目をつけるのですが……

 建築知識を利用したミステリを得意とするという作者らしく、地震で崩落した城(この辺りは熊本城をモデルにしているようですが)という特異な舞台で展開する本作。
 犯行現場の見取り図が掲載されているだけで訳もなく嬉しくなってしまうのですが、さらにそこに子連れの河童や増減する大岩という非論理的(?)存在が絡んでくるなど、ある種の本格ミステリらしさが横溢しているのがたまりません。

 しかし本作の真に凄まじい点は、終盤で明らかになる、ある真実の存在であることは間違いありません。
 そんなトリックありか!? と言いたくなってしまうのですが、しかし振り返って見るときちんと伏線は張られているのには、ただ唸るしかないのであります。

 ミステリ小説ならではの荒技を投入してみせた作品――そう言うべきでしょうか。


『富士に射す影』(霞流一):小田原城
 富士を模して作られたという冠原城で次々と起きる怪事を調べるため、藩の指南役頭の依頼を受けて訪れた旅の武芸者、その実は伊賀組同心の梵戸丸七。
 村の六地蔵が持ち去られた、逃亡した罪人の一人が穴に閉じ込められ餓死していた、小姓頭が天守の石垣にぶつかり死を遂げた、何者かの生首とイタチの胴体が一緒に置かれていた――さらに富士に揺れる鬼火、新たなる奇怪な死体の発見と続く中、梵戸は辿り着いた真相とは?

 本書の掉尾を飾るのは、『忍者大戦』に怪作『忍夜かける乱』を発表した作者の、これまた人を喰ったタイトルの本作。
 本作も、素背(すぱい)の梵戸丸七(ぼんどまるしち)という人を喰った探偵役が登場するユニークな作品となっています(というか、梵戸の正体も実は前作の登場人物であったり……)

 そしてその梵戸が挑む謎も、極めつけの奇怪なものばかり。何しろ物語のメインとなる謎からして、相撲好きの男が、あたかも石垣と相撲を取ったように、石垣に激突して死んでいたというものなのですから!
 その他にも奇怪な事件が相次ぐことになりますが――それが全てきっちりと論理的に解き明かされてしまうのは、本格ミステリの醍醐味と言うべきでしょう。

 その背後にあるのは、本作ならではの超論理ではあるのですが――しかし異様な余韻を残す結末を見れば、それにも思わず納得させられてしまうのであります。


 以上五編、「城」という共通のテーマはあるものの、各作品でその城に持たされる役割や意味づけは――江戸時代という舞台設定を踏まえつつも――よくもこれだけ多様性を持たせたものだと感心させられました。

 実は本書を読み始める前は、(もちろんモデルはあるものの)必ずしも実在の城ばかりではないことに不満があったのですが、しかしこの作品それぞれの城の扱い――すなわち時代小説としての城の描き方・扱い方を見て、考えを改めました。

 もちろんミステリとしての楽しさは言うまでもなく、時代ミステリアンソロジーとして大いに楽しむことができた本書。
 来月発売の〈西日本篇〉も楽しみにしております。


『御城の事件 〈東日本篇〉』(二階堂黎人編 光文社文庫) Amazon

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