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2020.04.17

東村アキコ『雪花の虎』第9巻 燃え上がった恋の先に待つ景虎の女性性

 女景虎伝もいよいよ佳境というべきでしょうか、京に上洛した景虎が出会った運命の人。彼と身も心も結びついた景虎ですが、しかし戦国時代という状況が、彼女を女性のままでいることを許しません。悲劇と戦いが続く中、宿敵との対決の行方は、そして景虎の選択とは……

 京都に上洛し、そこで足利義藤(義輝)とその近臣、さらに三好長慶と松永久秀、千宗易といった、国を動かす男たちと出会った景虎。その中で、義藤の供御方である一人の物静かな青年と出会った景虎は、彼に京を案内される中、強く惹かれるようになっていくのでした。

 そして久秀と山本勘助が送り込んだ刺客による大混乱の中、二人で落ち延びることとなった景虎は、逃避行の最中、ついに彼と結ばれることになります。
 彼――進士藤延、またの名を明智十兵衛と。

 と、景虎の初恋の相手が、よりによって今話題の人物だった! という仰天展開となった本作ですが、しかしこの巻においてさらに驚くべき展開を迎えることとなります。

 辛うじて難を逃れ、無事に越後に帰還した景虎。しかし彼女の身に異変が――そう、彼女には新たな命が宿っていたのであります。
 いつかは来るのではないか――と、思っていたこの展開ですが、しかしよりによって相手があの人物。というのはまあ良いとして(良いか?)、景虎はあくまでも戦国大名であります。

 しかも今の彼女は、国の東と西から請われて、関東出兵を目前とした状況。「儂が父親もやればよいだけのことじゃ!」とは彼女らしい言葉ではありますが、もちろんそれで済むはずはないのであります。
(そしてそんな彼女にとっての、日本にとっての関東出兵の意味、出兵するのが景虎でなければならなかった理由の解説が面白い)

 ただ、そんな無茶が祟って――というのは、これは彼女の一大事を都合良くイベントに使われたようで、正直あまり好きになれない展開ではあります。
 しかしそれに彼女の――彼女自身の視界に入っていなかった――女性性をクローズアップさせるという意味は確かにあったのもまた事実。特に、これまで男(晴信)に縋って生きる姿が景虎と対照的であった諏訪姫が、ほぼ同時期に、景虎と同様の運命を辿った姿を見れば……


 それでも歴史の流れは止まらず、川中島に、善光寺に武田の軍は迫り、かくて第二次川中島の戦が勃発。二百日にも渡る合戦は、その大半がにらみ合いだったとはいえ、確実に景虎の心身をすり減らしていくことになります。

 そしてその翌年、景虎史上に残る大事件というか怪事件というか珍事件というか――あの出家遁世事件が起きるわけですが、その理由を、本作は景虎の女性性を理由に描くことになります。
 男性読者としてはその理由に納得してよいものか正直なところ戸惑ってしまうところではありますが、しかしこの物語においてそうだと断じられれば――少なくともこの巻のエピソードを読めば――そうかと頷かざるを得ません。

 もちろんだからといって、あの男のもとに走っていいとは思わないのですが――そこに彼女を迎えにいくのが宗謙というのは、これはなるほど、という展開。
 泥沼の三角関係になりそうな展開が果たしてどう転ぶのか、次巻も(これまでと異なるベクトルで)気になるところではあります。


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