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2020.04.19

麻貴早人『鬼哭の童女 異聞大江山鬼退治』第3巻 酒呑と茨木と頼光、それぞれの始まりと、向かう先

 一度は討たれた酒呑童子と茨木童子の復讐絵巻『鬼哭の童女』の第3巻、最終巻であります。怨敵・頼光四天王の一人・卜部季武と再び激突することとなった茨木ですが、完全に異形と化した季武に大苦戦。そして、この戦いの先にあるものは……

 源頼光に討たれて体を喪い、渡辺綱の娘・葵の体に宿った酒呑童子と、彼女を守る隻腕の戦士・茨木童子。復讐のための戦いを始めた二人の前に立ち塞がったのは、酒呑童子の血を飲んで鳥人と化した占部季武であります。
 万物の動きを見切る異形の右目の力の前に圧倒された茨木童子ですが、前鬼・後鬼の支援、そして何よりもギリギリまで振り絞った酒呑童子の血を与えられて立ち上がり……

 という死闘の真っ只中から始まるこの第3巻。鬼と鳥人、異形と化して激突する茨木と季武の二人ですが、しかし激突するのは力と力だけではありません。そう、そこでぶつかるのは、二人の心と心、想いと想いなのであります。

 頑是ない幼子の身でありながら、酒呑に憑かれ、茨木の復讐に同行する葵。茨木はそんな彼女を利用しているだけだと嘯いてみせます。一方、身寄りをなくした鬼の子たちを引き取り、育てる季武は、その愛情を同僚の娘である葵にも向けるのであります。
 このように葵を挟んであまりに対照的な心の有り様を示す二人。しかしその真実は、さらに対照的なものであることが、ここで語られることになります。

 葵を復讐の道具として――そして酒呑童子の魂の器として扱うかに見えながら、しかしその実、己の守るべきものとして、家族として見ていた茨木。
 鬼の子を愛育しながらも、それはあくまでも喪った自分の子の代わりであり、そして子が成長すれば鬼として殺していた季武。

 それぞれに歪みながらも、その歪みがある意味正の方向に向かった茨木と、どうしようもなく歪みきった季武――「鬼」と「人間」の激突の中で浮かび上がるのは、復讐と血と絆を描いてきた本作にふさわしい、皮肉な人間ドラマであります。
 そしてそれだけでなく、そんな季武に対し単純な嫌悪ではなくある種の理解を示す茨木と、そしてその季武の悲惨な過去を今昔物語集の姑獲鳥とのエピソードに絡めて描いてみせる――そして季武自身が姑獲鳥となる皮肉!――は見事と言うべきでしょう。こんな物語が見たかった! と強く感じます。


 そして季武との戦いが終わった後に描かれるのは、そもそもの物語の始まりである酒呑・茨木と頼光の因縁、そして酒呑・茨木・葵の因縁――これまで断片的にしか描かれてこなかったものが描かれ、そしてその先に、ついに頼光自身の「望み」が描かれることになります。

 正義の具現として、悪を裁く仕組みとして存在してきた頼光。その彼が望む世界は、そしてその手段は――藤原道長のあのあまりに有名な史実と重ね合わせて描かれるそれは、こう来たか!? と大いに驚かせ、戦慄させてくれました。

 が――残念ながら、本作はそこで終幕を迎えることとなります。
 正直なところ、私もこの巻に至るまで、本作で描かれる「正義」と「悪」の概念、何よりも頼光のそれに乗れなかったのですが――それでもここで描かれたものを見れば、勿体ない、という気持ちは浮かびます。

 酒呑と茨木と頼光、それぞれの始まりと、向かう先が見えただけに一層……


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