横山光輝『伊賀の影丸 七つの影法師の巻』 純度を高めたトーナメントバトルの頂点
次々と殺されていく公儀隠密たち――それは「影法師」を名乗る忍びたちの仕業だった。薩摩藩によって雇われた影法師たちから七対七の勝負を挑まれた服部半蔵は、公儀の威信を賭けて影丸ら七人の精鋭を召集する。そして始まった死闘の中で双方のメンバーは次々と斃れ、影丸までもが深手を負うことに……
久々に取り上げる『伊賀の影丸』は、第四部「七つの影法師の巻」。今回影丸たちの敵となるのは、薩摩藩が隠密組織設立のために集めた影の一族(詳細は不明。赤影たちの影一族ともまた違うのでしょう)の精鋭・影法師たちであります。
夜霧丸・野火・死神・紫右近・雪風・幽鬼・魔風と七人――すなわち今回のサブタイトルの「七つの影法師」です。
(それにしてもサブタイトルの格好良さとしては、今回は全編を通して屈指と言ってよいでしょう)
この影法師たちから、自分たちと腕比べしなければ江戸城や徳川家関係者にいたずらをして回るという――すなわち公儀隠密の面目を潰すという一方的な挑戦を受けた五代目服部半蔵。
もちろんこの挑戦から逃げるという選択肢はなく、影丸と伊賀者の精鋭六人――幻也斎、式部、片目、雷天、天鬼、夢麿の面々が、この戦いに臨むことになるのです。
かくてひたすら繰り広げられるのは、七対七のトーナメントバトル。
斃された者が出るたびに、巻物に記された双方の代表選手の名に線が引かれていくという(どこかで見たような気もするけれども)シビれるシチュエーションも強く印象に残り、公儀隠密が敗北寸前まで追い込まれるという展開、そして何とも苦い後味も相まって、ファンの間でも人気の高いエピソードではないかと思います。
もっとも今回冷静に読んでみると、物語らしい物語がほとんどないことで、やはり少々盛り上がりに欠ける部分があるのも事実。
また、バトルが始まった瞬間から、技も出さずに斃される奴がいたりと(80年代初頭にジャンプを読んでいた人間には何故か懐かしい展開)、シンプルなトーナメントバトルのわりには、忍法合戦という点では今ひとつ食い足りない点も否めません。
それでももちろん、忍者ものとしての面白さは他作の追随を許さないところで、例えば斃されたと思われた男が実は――という展開は(これも冷静に考えれば阿魔野邪鬼の得意技ではありますが)、トーナメントバトルにおいては大いに燃える展開でしょう。
さらに互いに豊富な術を持つ天鬼vs幽鬼の激闘(今回のベストマッチでは)や、あるいは作中最大のピンチともいえる状態からの影丸の命懸けの逆転劇など名場面も多く、やはり読み始めたら止まらなくなるのは、これはさすが――と言うほかありません。
さて、この『伊賀の影丸』のエピソード紹介では連載順に振り返っているわけですが、これまでの「若葉城の巻」「由比正雪の巻」「闇一族の巻」と、いずれも忍者同士のトーナメントバトルが描かれてきたものの、その性質が少しずつ変化してきたことが見て取れます。
まず「若葉城の巻」は、はっきりと『甲賀忍法帖』の影響を受けながらも、しかし物語の骨格は、ある藩で進められる陰謀を探索する忍者の戦いという、ある意味従来の時代もの・忍者もののそれであると言えます。
そこでは味方側も影丸とそれ以外という印象ですが、それはさらに従来路線が強い「由比正雪の巻」でも変わらず、「闇一族の巻」に至ってようやく影丸と同格の(同じくらい活躍する)味方が登場となったわけです。
それがこの「七つの影法師の巻」に至り、ストーリーに探索や追跡要素のない、純粋なトーナメントバトルになった――というわけで、『伊賀の影丸』という作品が、徐々にバトルの純度を高め、今回ついにその頂点に達したというのは、なかなか興味深いことであります。
もっともここで頂点と述べたように、この先のエピソードは、また従来の忍者もの+α――というより従来路線の味わいが強くなるわけで、この辺りのさじ加減はやはりなかなか難しいもなのだな、と今回改めて感じた次第です。
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