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2020.04.18

輪渡颯介『怪談飯屋古狸』 恐怖かタダ飯か!? 新たなコミカル怪談ミステリの開幕

 無鉄砲さから修行先を飛び出し、食うや食わずやの日々を送る虎太。ある日見つけた飯屋「古狸」の看板娘・お悌に惹かれた虎太だが、そこは怪談を聞かせると無代になるという奇妙な店だった。無類の怖がりにもかかわらずお悌と飯代に釣られた虎太は、幽霊が出るという怪談の現場に行く羽目になって……

 デビュー以来、発表する作品のほとんどが、「幽霊」を題材とした「コミカル」で「ミステリ」風味の「怪談」という作者の新シリーズ第一弾は、やはりその路線を踏まえた、極めてユニークな物語であります。

 何しろ物語の中心となる飯屋・古狸(正確には飯屋と蕎麦屋と菓子屋の三つが並んでいるのですが)は、怪談を聞かせれば飯代がタダになるという不思議な店。
 それも作り話ではなく、実話で、しかも場所や関係者がはっきりとわかっている怪談でなければダメという、奇妙な条件がつく店なのです。

 そんな古狸に足を踏み入れたのは、生来の無鉄砲とアホさで損ばかりしている職人見習いの虎太。その性格が元で職を失い、今は日傭取りで食い繋いでいた彼は、友人の家に借金に行く途中、店の看板娘のお悌に惹かれて店に入ってしまったのであります。
 そこで古狸のルールを聞いた虎太は、お悌に良いところを見せたいのとタダ飯を食いたいのと、二つの気持ちから、古狸に集まる怪談の現場調査をすることになってしまうのでした。

 しかしその現場というのが最初の住人である女性が殺されて以来、女の幽霊が現れ、住人の怪死が相次ぐ「死神の棲む家」、三人の女性が行方不明となり、その一人の幽霊が出るという「神隠しの長屋」――とまた洒落にならないものばかり。

 どちらも妙に生々しい物件で、そこに泊まりがけで調査することとなった虎太こそいい迷惑であります。
 何しろ彼は、人間相手の喧嘩であればそこらの相手には引けを取らないものの、無類の怖がり。しかもよりによって「見る人」だったことから、しなくてもいいような怖い目(に留まらない命の危険)に次々と遭う羽目に……


 というわけで、作者のファンにはお馴染みの、どこか抜けた生身の連中が、冗談抜きで恐ろしい幽霊と遭遇して大変な目に遭うという趣向の本作。
 作者の作品の魅力の一つは、そこに至るまでの設定・構成の面白さにあると言えますが、本作の場合の場合は、もちろん古狸のルールがそれに当たります。

 実はこの奇妙なルールの理由は、物語のかなり早い段階で明らかになるのですが、しかしその内容は一見無茶のようで、なるほど、と納得させられるものがあります。
 もちろん、設定が面白くとも、肝心の怪談の内容がつまらなければ興醒めなのですが、その点は心配なし。幽霊という、人間の姿をしておりながら、人間のロジックとは全く異なるルールで動くギャップから来る不気味さ、理不尽さを描く作者の筆は健在であります。
(特に本当に洒落にならない「死神の棲む家」の幽霊……)

 そしてそれと同時に、生身の人間の恐ろしさというのも見せつけられるのですが――それは本作の「ミステリ」としての部分に関わるので多くは語りますまい。一本の物語として本作を〆るこの辺りの趣向も、実に好みであります。


 もっとも、この趣向がちょっと定番で既視感があったり、メインの怪談の数が少ないのでちょっとシンプルに見えてしまったり――という点はあるのですが、シリーズの開幕篇としては上々の滑り出しでしょう。
 第2弾『祟り神』も近いうちに紹介したいと思います。


『怪談飯屋古狸』(輪渡颯介 講談社) Amazon

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