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2020.04.29

『柳生一族の陰謀』 伝説の名作時代劇、ここにリファイン

 徳川秀忠の急死により、将軍後継を巡って緊張が高まる幕府内。家光派についた柳生宗矩は、三人の子に加え、放浪中の十兵衛と根来一族を呼び寄せ、忠長派と暗闘を開始する。さらに朝廷では烏丸少将が漁夫の利を狙って暗躍、三つ巴の仁義なき戦いは犠牲者を増やしながらエスカレートしていくが……

 放送から間が空いてしまい恐縮ですが、BSプレミアムで放送されたスペシャルドラマであります。もちろんベースとなっているのは深作欣二監督の名作映画ですが、ストーリー等は映画版を踏まえつつも、また少々異なる味わいとなっております。

 これまでも様々なフィクションで扱われてきた家光と忠長の相剋を題材とした本作。秀忠の死が松平伊豆守と春日局による毒殺だった、という巨大なフィクションから始まり、家光派と忠長派、そして朝廷の間の権力闘争(というよりタマの取り合い)という切り口で家光の三代将軍就任を描く――という内容に変わりはありません。
 しかし映画が二時間強であったのに比べれば、ドラマは一時間半ということで、登場人物が一部整理・統合され、だいぶスピーディーな展開となった印象があります。

 特に大きいのは名護屋山三郎がオミットされ、出雲の阿国が小笠原玄信斎の養女という設定で大奥に潜入して家光を狙う――という辺りで、おかげで忠長派側のドラマが弱くなったという印象はあります。
(榎木孝明の小笠原玄信斎もさすがの貫目だったものが出番が少なくてもったいない)

 またキャスト的にも、非常に濃かった映画版に比べると、良くも悪くもかなりスマート――という印象はあるのですが、若者組はそれぞれに一種の悲壮感があってなかなか良かったのではないかと思います。
 個人的にはちょっとどうなのかな、と思っていた溝端淳平の柳生十兵衛も、クライマックスに宗矩と対峙した際の「笑いながら怒る」顔など、印象に残りました。
(しかし舞台の『魔界転生』では十兵衛と戦う方だったのに――というのは蛇足)

 しかし印象に残るといえば、何と言っても波岡一喜の烏丸少将で――代々(?)成田三樹夫、佐野史郎と錚々たる顔ぶれが演じたキャラクターを、期待通りに怪演。
 やはり出番自体はそれほど多くないものの、主膳(そういえば何故左門ではなく主膳だったのか――終盤の展開をキャラ的に左門にさせるためだったとは思いますが)と根来左源太を実質一人で倒し哄笑する姿は、上記のとおりスマートなキャラクターの多かったこのドラマ版でも屈指のインパクトであったかと思います。


 そしてキャラクターといえば、やはり柳生宗矩ですが――本作で宗矩を演じた吉田鋼太郎は、さすがにアクションの点ではさまで印象に残りませんでしたが、一見常識人風の立ち振る舞いと、決め所での舞台調の演技が印象に残ったところ。
 特にラストの「夢でござーる!」のくだりは、狂乱の果てに己の血糊に滑って倒れ伏す姿も強烈な熱演で、この辺りの静と動の使い分けはさすがはシェイクスピア役者――と言うべきでしょうか。

 個人的にはこの方が演じるのであれば、ひたすらフラットな演技で、終盤に一気に本性を現す偽君子キャラにした方が面白かったのでは――と思いましたが、これはさすがに物語そのものが変わってしまいますね。


 その他にも、上で触れた血糊のように、結構容赦なく血が流れたり、そもそも冒頭から胃袋、そしてラストにはアレが出たりと、BSとはいえ最近のTV時代劇にしてはかなり思い切った描写があったりと、かなり力が入っていた印象のある本作。
 この調子で、往年の名作時代劇をもっともっとリファインしてほしい――と、感じます。


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