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2020.04.24

黒田研二・岡田秀文『御城の事件 〈西日本篇〉』(その一)

 「城」を舞台とした時代ミステリアンソロジーという極めてユニークな『御城の事件』の第2弾であります。第1弾同様、全5作品が収録された本書を、今回も一作品毎に紹介いたします。

『幻術の一夜城』(黒田研二):墨俣城
 天正伊賀の乱で愛妻を殺されて以来、抜け殻のように生きてきた元忍びの音吉。行き倒れかけたところを伊木忠次に拾われ、墨俣城に招かれた彼は、天下を巡って対立する秀吉と家康が一触即発の状況にあると知るのですが――そこに供一人を連れて現れたのは当の家康。
 音吉、家康らを前に、主である秀吉の墨俣一夜城の偉業を得々として語る忠次。家康はその仕掛けを見破ったと語り、自分にも城を消すことはできると嘯くのですが……

 本書とは姉妹編ともいうべきアンソロジー『忍者大戦 赤ノ巻』に掲載された『怨讐の峠』の続編・後日譚とも言うべき本作。そちらでは伊賀の乱の直後に、伊賀越えで家康を救った音吉ですが、本作で再び家康と出会うことになります。
 さて、実質的な本作の主人公となる家康ですが、『怨讐の峠』同様、人を食ったような態度を見せる食えない親爺といったキャラクターで、本作では探偵役として秀吉の墨俣一夜城の謎を解き明かすと同時に、犯人役として、城を一つ消してみせる(!)ことになります。

 しかし前者はともかく、後者は――と思えば、明かされたのはあっと驚く史実とのリンク。いやはや、持っている人間は違う、というべきでしょうか。前作同様、家康の器の大きさに驚かされる一編です。


『小谷の火影』(岡田秀文):小谷城
 信長の猛攻で落城寸前の小谷城。そこから愛するお市の方と子供たちは逃がそうと腐心する浅井長政ですが、そこに奇怪な事件が起きることになります。
 城に潜入したものの捕らえられた間者が脱獄、その直後にあろうことか長政の父・久政とお市の方が何者かに捕らえられ、犯人は城内の小屋に閉じこもったのです。

 そこに脱獄したはずの間者の死体が発見され、混乱する城内。果たして立て籠もった曲者は何者なのか――という謎が深まる中、曲者は浅井家に仕えるある武士を連れてくるよう要求するのですが、しかしその男は……

 本アンソロジーの執筆陣はミステリ作家がほとんどで、歴史時代小説作家はかなり少ないのですが――ほとんど唯一の歴史時代小説プロパーが岡田秀文であります。
 しかしその一方で、『太閤暗殺』『伊藤博文邸の怪事件』など、歴史ミステリともいうべき作品を数多く発表しているのが作者であり、本作もさすがは――と言うべき作品です。

 浅井長政・お市夫妻の悲劇である小谷城落城の意外史ともいうべき本作で描かれるのは、落城直前に起きた怪事件の数々。一つ一つだけでも奇怪な事件が、それも次々と連続して起きていくスピード感にまず驚かされますが、そこに人質にされた久政とお市の方の視点からの物語が挿入されることで、更に緊迫感が高まります。
 そして犯人の一見不可解な要求と、そこに秘められた意外な真実とは――複雑怪奇なミステリと、史実が重なり合った末に明らかになる真相にはただただ圧倒されました。

 イヤミス的な味わいすらあるというべきラストも含め、見事な歴史ミステリである本作。個人的には東日本篇を含めた『御城の事件』でもベストと言いたい一作です。


 残る三作品は、次回ご紹介いたします。


『御城の事件 〈西日本篇〉』(二階堂黎人編 光文社文庫) Amazon

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