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2020.04.16

「コミック乱ツインズ」2020年5月号

 「コミック乱ツインズ」5月号は、青をベースとしたタッチが印象的な『暁の犬』が表紙。巻頭カラーは『鬼役』、シリーズ連載は『軍鶏侍』が掲載されています。今回もまた、印象に残った作品を取り上げましょう。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 次代どころか次々代将軍の座をめぐる争いが激化する中、毒殺された尾張徳川家の当主・吉通。それをきっかけに尾張藩内の後継争いも激化し、流血沙汰に――という実に混沌とした状況となってきた本作。

 そんな中で聡四郎は、全面衝突寸前の尾張藩士数十人の中に一人割って入って――と、これまでの戦いの中で積んだ経験値の高さをはっきりと見せつけることになります。
 が、冷静に考えると、(ヒーローだからという理由以外で)何故聡四郎はこんな行動を――という気がしないでもないのも正直なところで、これまで切っ掛けだけでも上司の命令によって動いていただけに、ちょっと混乱してきました。もっとも、一番困っているのは聡四郎自身なのは間違いないのですが……


『暁の犬』(高瀬理恵&鳥羽亮)
 本誌と同時に単行本第1巻発売(本誌の表紙画は単行本のもの)となり、絶好調の本作ですが、今回はほとんど一話を使って二つの壮絶な決闘が描かれることとなります。

 根岸大隅に真のターゲットである鳥居を討たせるため、邪魔となる同役の小堀の相手を買って出た佐内。しかも、まともに戦えば全く敵ではない小堀を、「二胴」に対する恐怖を克服するための練習台として使おうという舐めプぶりであります。
 一方根岸の方は、これまでの置物のタヌキ然とした姿からついに気迫に満ちた剣士としての顔を見せ、鳥居と互角の勝負を展開。カウンター狙いの下段を使う鳥居の剣を冷静に捌く姿は、やはり人斬りで喰ってきた者の迫力というものを感じさせます。

 かくて、登場人物たちがほとんど瞬きしていないようにすら感じられる、読んでいるこちらが疲れるほどの気迫で繰り広げられた二組の死闘。その結果は言うまでもありませんが、その後の二人の言動に、それぞれのキャラクターが出ているのが実に面白いところ。
 ますます豪快で馴れ馴れしい根岸もさることながら、意外と潔癖症で、そして恐怖を乗り越えたことに満足げな佐内のキャラクターはやはり実に独特で、そこがまた彼の魅力であると再確認させられました。


『カムヤライド』(久正人)
 ヤマトを強襲した敵の幹部クラス「コヤネ」と「イシコリドメ」とそれぞれ激突するモンコとヤマトタケル。強力な音波を武器とするコヤネに対し、モンコは土を操って防音壁を造り出し、埴輪作りらしい特殊能力で反撃を開始するのですが――ここで轆轤を回すポーズ(いや本職なんですが)を取りながら、早口で聞かれていないことをしゃべり出すモンコは確かにキモいと思います。
 一方、イシコリドメの光線攻撃に生身で挑むのはさすがに辛かったヤマトタケルですが、盾サーフィンで格好良く出撃したオトタチバナが駆けつけてお姫様抱っこ(もちろん抱かれるのはタケルの方)。オトタチバナ・メタルが強烈な一撃を叩き込むのでした。

 が――もちろん幹部クラスがこれで沈むはずもなく、致命的なダメージを食らってしまった二人のヒーロー。果たしてこの先、打つ手があるのか。そして戦いを目の当たりにしたオシロワケ大王の記憶をよぎる巨大な影とは――毎回実に気になるヒキであります。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 色々あった末に、ようやく秀吉の待つ小田原に向かうこととなった政宗・景綱主従。詰問の使者として訪れた浅野長吉・前田利家を前に、政宗の抗弁が始まって……
 と書くと実に真っ当な展開なのですが、政宗・秀吉双方が時々ものすごいボケをかますのが本当に可笑しい本作。しかし、だからこそラストに見せる政宗の巧みな切り返しが映えることは言うまでもないでしょう。


 そのほか、『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)は最初のエピソードでの敵であり、かつての親友の娘が軍鶏侍の前に現れ――という展開。その娘の凄まじいまでの美しさが強烈に印象に残るのですが――この作品の場合、顔である程度先の運命が読める気がします。
 『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)は、いよいよ白子屋との抗争がスタート。白子屋を討とうとする小杉さんと止めようとする梅安、小杉さんを狙う男色剣客コンビ、さらには白子屋自身までも動き出し――と盛り上がりますが、一番怖いのは、さりげなく一番えげつない手を使う音羽の元締めであることは衆目の一致するところではないでしょうか。


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