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2020.04.03

朝松健『真田妖戦記 2 「死生変幻」編』 三つ巴の争い再び! そして秘儀の陰の人の意思

 燦星秘伝吽之巻の謎を追う中、春日局が手にしていた張形に立川流との繋がりを発見した佐助。その内側に記されていた奇怪な暗号文を巡り、再び真田・柳生・羅山ら三派の争いが始まる。ついに明らかになる星辰影向の秘密とは、そして佐助と佐久夜が野干獣と謎の黄金鬼に導かれた地底の黄金地獄とは……

 朝松健畢生の大作『真田妖戦記』シリーズの第2弾であります。
 前作「燦星秘伝」編では、大久保長安が残した謎の書「燦星秘伝」の謎を巡り、佐助と才蔵ら真田の勇士たち、天海僧正と結ぶ柳生宗矩の娘・佐久夜を中心とする柳生・服部一党、本多佐渡と結んだ林羅山・大久保彦左衛門ら三つの勢力が激突する様が描かれました。

 魔草うとぱらの力により封印していた自分の本性と記憶を甦らせ、奇怪な野干獣と化した大久保長安に操られるように激化した末に、富士の樹海で決戦を迎えた三つ巴の争い。
 死闘の果てに、燦星秘伝のうち阿之巻は破却され、吽之巻は佐助と佐久夜が半分ずつ手にすることで、ひとまずの決着がついたのですが――驚くべし、前作で描かれたものは、物語のほんのとば口に過ぎなかったことが、本作を読めばわかることになります。

 勇士たちの働きで手に入った吽之巻の後半と、大坂城で密かに出回っていたうとぱらの花から、豊臣家と伝説の邪教・真言立川流に何らかの繋がりがあることを知った幸村。
 そして彼の命で探索に当たった佐助は、抱き合う男女の聖天が彫られた春日局の張形を奪取することになります。そしてその内側に梵字で彫られた真言と祝詞を読み上げた時――奇怪にも象牙であったはずの張形は溶解し、黄金と化したではありませんか。

 一方、林羅山そして天海僧正も、春日局の肉体に刻み込まれたこの梵字を解読、「カムナヒ・ノ・ナカテ・ノ・アリカ」と記されたこの暗号の謎を巡り、再び三つ巴の争いが展開することになります。
 そしてその陰で再び暗躍するのは野干獣――いやそれだけでなく、常人離れした凄まじい力を振るう神出鬼没の怪人にして全身黄金に輝く謎の黄金鬼が、佐助や佐久夜たちの前に立ち塞がるのです。

 やがて物語は、伊豆を舞台に繰り広げられる暗号解読競争と、野干獣と黄金鬼によって謎の黄金地獄に拉致された佐助と佐久夜の運命に収束していくことになります。そしてその果てに、ついに謎の秘儀「星辰影向」の正体が明らかに……


 というわけで前作同様、大久保長安が残した暗号を巡る三つ巴の争いが描かれる本作。
 しかし前作のターゲットであった燦星秘伝はあくまでも長安が残したものの一つに過ぎません。そもそもこの秘伝は、長安が知った「星辰影向」の秘密を記したものであり、それは前作の時点でもいまだ謎のままであったのですから。

 死を前にして泰然自若としていた石田三成を狂乱させた「星辰影向」。その内容が明かされれば豊臣も徳川もひっくり返り、天下が大混乱に陥るというその秘密が、ここで明かされることになるのですが――いやはや、その内容の凄まじさたるや!

 作者は、「実在の」魔教(最近の研究ではそれは誇張のようですが)立川流を、デビュー作以来、数多くの作品で描いてきました。
 その作者が描く秘儀の正体は、奇想も奇想ではありますが――しかし作者一流の伝奇センスと魔術的論理性とでも言うべきものに裏付けられたそれは、その複雑怪奇なメカニズムも相まって、異様なリアリティを持って感じられるのです。

 もちろん、そこに至るまでの伝奇活劇の面白さも健在であります。さらに前作に登場した豪華メンバーに加えて、本作では佐助の師匠・戸沢白雲斎、狒々退治の豪傑・岩見重太郎、獣めいた武芸者である宮本武蔵、地獄の扉の番人を名乗る謎の達人・夜叉翁、そして黄金鬼と多士済々で――再読ながら、巻を措く能わずという言葉の意味を教えられた気持ちであります。


 しかし本作で忘れてはならないのは、この伝奇的大秘事・大陰謀も、それを生み出したのは、人の意思、いや人の欲であったということでしょう。
 確かにそれは立川流の秘儀あらばこそではありますが、秘儀はあくまでも手段。その引き金となったもの、すなわちその目的は、人が人として持つ欲望であることを、この秘密の内容と、それを手にした者たちの醜い姿は教えてくれるのです。

 そして秘儀と人の意思の構図は、シリーズ最終巻である次作「治天砲」編でさらに意外な形で描かれることになるのですが――この大作については、またいずれご紹介いたしましょう。


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