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2020.04.04

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第13巻 信長晴れ姿 一つの別れと一つの出会い

 若き日の信長の破天荒な青春を描く本作も気付いてみればもう13巻。前巻では萱津の戦でついにその仮面を脱いだ信長ですが、この巻では戦以上に大きな出来事が、彼を待ち受けることになります。一つの別れと一つの出会い、それが信長の運命をどのように変えるのか……

 今川義元の脅威が迫る中、内紛が続く尾張――その中で起きた萱津の戦で、うつけ者の仮面を脱ぎ、鮮やかな勝利を収めた信長。
 しかしそれが同時に、思わぬ脅威を尾張に招くことになります。それは美濃の斎藤道三――信長のいくさ人としての本性を知った道三が、信長を危険視し始めたのであります。

 しかしいかに信長が麒麟児とはいえ、いま美濃に迫られてはひとたまりもありません。この危機を好機に変えるため、平手政秀は己の命を賭けて……
 という場面から始まるこの第13巻。(フィクションで見た場合の)若き日の信長にとっての三大イベント――と私が勝手に呼んでいる信秀の死(というかその葬儀)・平手政秀の切腹・斎藤道三との対面のうち、信秀の死は既に描かれましたが、残る二つがここで描かれることになります。


 信長の傅役・後見役として彼を支えてきた政秀。その彼が突如として切腹したのはまぎれもない史実ですが――しかしその理由は様々に推測されています。

 その最も有名なものは、信長のうつけ者ぶりを憂い、彼を諫めるためというものですが――少なくとも本作においては、政秀にとって信長のうつけ者ぶりが偽りのものであることは百も承知。それが理由にはなり得ません。
 それでは一体――と思えば、それは史実では彼の死のわずか3ヶ月後に行われた、斎藤道三との対面の機会を作るため。その捨て石となって彼は自らの命を擲ったのであります!

 ――冷静に考えれば相当無茶な気もいたしますが、しかしそれを原哲夫の画で見せられれば、これはもう納得するしかありません。
 少なくとも、政秀の真意を知って「平手よ……お主という……漢は……」と天を振り仰いだ道三の表情、悲しみと驚きと感動とが入り交じったようなその表情を見せられば。


 かくて道三と対面することとなった信長。史実では途中までいつものうつけ者姿で現れた信長が、対面の時には凜々しい正装姿となっていたことに道三は感嘆し、配下にいつかお前たちの主は信長になるだろう、と語ったという有名なくだりがありますが――本作がその美味しすぎるイベントを描かないはずがありません。

 しかしここまで盛り上げておいて、如何に「史実」を超えてみせるか? それは非常に難しい問題のように見えますが、本作は軽々とそれを乗り越えて見せます。
 信長を出迎えるために道三が用意した、7、800人もの古強者たち。いつでも刺客となり得る彼らの無言の圧力に信長は――と、これが実に本作の信長らしい、痛快極まりないやり方で、文字通り周囲を圧倒してみせるのだからたまらないのであります(そしてそれをお膳立てしたのが――というのもまた泣かせる)。

 しかしこれはほんの序の口、ついに相対した道三を前に、この対面が単なる儀式ではなく、正真正銘の戦であることを、これ以上ないやり方で――豪快かつ無茶ではあるものの、なるほど信長のイメージにきっちり叶った形で――突きつけてみせる信長の姿にはシビれるほかありません。
 この巻で彼を評して言う、信光の「つくづく泣かせる漢」という言葉がぴったりくる、そんな信長の晴れ舞台であります。


 そしてこの大勝負で道三を味方につけた信長は、圧力を強める今川とついに対決を決意、嵐の中、村木城に向けて出陣する――という場面で終わるこの巻。
 義元との正面対決まで作中時間であと6年、それまでに何が描かれるのか――やはり楽しみにせざるを得ない物語であります。

『いくさの子 織田三郎信長伝』第13巻(原哲夫&北原星望 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon

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