出口真人『前田慶次かぶき旅』第3巻 舞台は天草へ 新たなる敵剣士の名は!?
その後の前田慶次を描く本作も3巻目に突入であります。肥後での騒動は解決したものの、そこで天草の不穏な動きを知ることになった慶次。もちろん黙っていられるはずもなく、早速天草に乗り込んだ慶次の前に現れたのは、なんと……
関ヶ原の戦の後、飄然と九州に旅立った慶次。肥後で加藤清正と出会い、たちまち意気投合した慶次ですが、土地の盗人島で、地元の民数十人が南蛮海賊に殺されるという事件が発生することになります。
一触即発の状況を収めるために慶次が提案したのは清正の前での御前試合。海賊側は事件の張本人である剣士・ガルシア、日本側は立花宗茂――この異次元対決はいくさ人の貫禄で宗茂の圧勝に終わったのですが、それが新たな事件の火種となります。
御前試合の結果をもって双方遺恨は水に流す――はずが、納得がいかぬと海賊側に迫る島の人々。その場は清正自身の出馬で治まったものの、その背後には天草のキリシタン勢力の暗躍があったのであります。
それと時を同じくして、土地の役人が天草の海中で発見した巨大な黄金の十字架。しかし役人一行は、そこに現れた異国人・ガルシア神父に連れられた剣士によって皆殺しにされるのでした。
驚くべきほどの長さの刀を操るその剣士の名は、なんと……
というわけで、新章突入という印象のこの巻。肥後編(?)と同様、異国人が敵という展開になりますが、しかし九州のキリシタンをエスパニアの隠れ戦力とも言うべき存在として描く視点はそれなりに面白いと感じます。
しかしそれ以上に面白いのは、やはりなんと言っても、今回の「敵」であろう日本人剣士の存在。ほとんど長刀、というより長巻サイズの刀を自在に操るその剣士こそは、佐々木小次郎! それも後に宮本武蔵と戦う小次郎の先代、初代小次郎という設定であります。
なるほど、本作に小次郎が登場すると聞いた時には、時代が合うような合わないような――と思いましたが、こういう設定にしてきたか、と感心いたしました。
ちなみに本作には、前の巻から徳川の密偵という設定で、柳生兵庫助が登場。剣の腕はさすが――というべき若者ですが、しかし本作に登場するのは慶次をはじめとして清正、宗茂と化け物クラスのいくさ人なので、いささか分が悪く、まだまだ未熟な若者という描写であります。
考えてみれば慶次は完全に成長の余地がないキャラクターであるだけに、これから成長する若者の視点というのを担うことになるのかな――という印象ですが、作中の描写的には、もしかするとコメディリリーフなのかもしれないのが本作の恐ろしいところで……
さて、そんな強敵や若者たちが登場してくる中で、一人余裕――というよりほとんど狂言回し兼焚付役という印象があるのが、本作の慶次であります。
上で述べたように、今から成長する要素がない――というより最初から完全なキャラクターとして描かれている慶次(なるほど、退屈するわけだ――と今頃になって感心)。
この巻でも、天草の残党相手に相変わらず無茶苦茶な無双ぶりを発揮したほかは特にアクションもなく、ほとんど状況を面白がっていただけと言ってもいい状態です。
だがそれがいい、それでこそ慶次であります。
果たして初代佐々木小次郎がついに慶次を本気で動かすことになるのか――それはまだもちろんわかりませんが、慶次が現れた以上、この先ただではすまないことだけは確かでしょう。
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