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2020.05.02

横島一『宇宙戦争』第1巻 新たなる火星人襲来の物語

 1901年、イギリスはメイベリーに火星から飛来した巨大な金属の円筒が落下した。偶然そこを訪れた写真家の「私」は、そこから奇怪な火星人が現れ、そして円筒からの光線が群衆もろとも周囲を薙ぎ払う様を目撃する。さらに巨大な三本足の怪物が出現、軍隊も壊滅する事態に……

 あの『宇宙戦争』の漫画版であります。かのH・G・ウェルズによる古典中の古典――火星人はタコ型というイメージを固め、オーソン・ウェールズのラジオドラマがパニックを引き起こしたという伝説を持ち、最近ではスピルバーグによって映画化された作品、フィクションの世界でも様々なパスティーシュを生み出したあの作品です。

 その漫画版の主人公となるのは、写真家の「私」。その私が、依頼主を訪ねて訪れた採掘場で、空から落下した奇妙な円筒を目の当たりにする場面から物語は始まります。
 そこから現れた奇怪な生物と友好を深めるべく有志が近づいた時、円筒から放たれた光線。それが一瞬のうちに斜線上の人々を焼き尽くし――いや一瞬のうちに消し尽くし、周囲が阿鼻叫喚となる中から、辛うじて私は逃げ延びるのでした。

 しかしその円筒が観測された通りに火星からやってきたのだとすれば、三倍の重力で火星人は身動きが取れないはず――という妻の言葉に安心する私ですが、しかし円筒からの光線は驚異的な射程を持ち、翌日私が訪れた教会を一瞬のうちに貫くのでした。
 この惨状に妻を連れてロンドンへの疎開を決意した私。しかし大事なカメラを落としたことから、教会に戻るという牧師とともに、家に戻るのですが――その途中、二人は山のように巨大な三脚台(トライポッド)と遭遇、炎に包まれた街を目の当たりにすることになります。

 そしてそこで火星人迎撃に向かった軍隊の生き残りである砲兵と出会った私と牧師は、三人でロンドンを目指すことに……


 先に述べたようにあまりによく知られた原作ですが、その原作の登場人物や物語の流れを踏まえた上で、本作ならではのアレンジを加えた内容となっている漫画版。
(原作をご存知の方であれば、敢えて詳しめに書いた上記のあらすじの時点で、その違いに気付かれたことでしょう)

 その変更点の最たるものは、何といっても主人公の職業でしょう。
 原作では哲学関係の著述家であった主人公ですが、本作では写真家――それも写真を撮ることに、ちょっと度を越した情熱を持つ人物。それ故に彼は半分巻き込まれて、そしてもう半分は自分の写真家としての執念から、火星人の猛威を目の当たりにすることになるのです。

 そしてその猛威の描写も、漫画というメディアらしくと言うべきか、ビジュアルとして強烈なものがあります。
 何よりも、火星人の脅威の最たるものである熱線は、原作では人々を黒焦げに変えるものでしたが、本作においてはくり抜く――おそらくは高熱・高速による一瞬の融解なのでしょう――という凶悪なもの。「その部分」以外は無傷な人々の躯が転がる姿は、悪夢以外のものではありません。

 そして火星人やそのトライポッドが、より生物的――というか、クリーチャー的な外見となっているのは(そういえば作者コンビにはクトゥルー時代劇『伴天連XX』がありました)、これは賛否あるかもしれませんが、少なくとも主人公とトライポッドが遭遇する場面の想像を絶するスケール感は、この第1巻でも白眉でしょう。


 その他にも、主人公と砲兵、牧師が一堂に会する場面があるなど、物語展開にもこの先違いが生まれることも予想される本作。
 古典であっても今なお古びない物語を、どのように今描くのか、この先も期待してよさそうです。


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