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2020.05.27

武内涼『源平妖乱 信州吸血城』 霊宝を巡る絶望の死闘

 京の殺生鬼を壊滅させたものの、自分たちも大打撃を受けた義経ら畿内の影御先。濃尾の影御先に身を寄せた義経と巴は、邪鬼と結ぶ立川流の寺院を急襲するが、そこに待ち受けていたのは不死鬼・黒滝の尼の罠だった。木曾義仲らに辛うじて救われた義経たちだが、影御先の霊宝を狙う敵の魔手が迫る……

 平安時代を舞台に血吸い鬼たちとの死闘を描く『源平妖乱』待望の続巻であります。
 古代に海を渡り日本に渡来した血を吸う鬼たち――人を殺さず人と共存する不殺生鬼と、人を吸い殺し仲間を増やさんとする殺生鬼、そして一度死んだ殺生鬼が復活し邪悪な力を得た不死鬼。このうち、殺生鬼と不死鬼(合わせて邪鬼と呼称)を敵とし、人知れず死闘を繰り広げてきた者たちが「影御先」であります。(東欧世界でクルースニックと呼ばれる者、と明言されているのが熱い)

 本作の主人公・源義経は、恋人を殺した殺生鬼・熊坂長範を追って鞍馬山を下り、影御先に参加した若者。長範の娘であり、長範を母の仇と狙う静らとともに京の邪鬼を倒し、仇を討った――のが前作の物語でありました。
 しかしその代償に畿内の影御先も壊滅、義経は静らと別れて濃尾の影御先に加わり、それから一年後の物語が本作となります。

 邪教として名高い真言立川流が、邪鬼と結び、勢力を拡大していることを知った濃尾の影御先たち。彼らは立川流の、邪鬼たちの根城と目される熊井長者の屋敷に急襲をかけるのですが――地下の破戒壇に突入した義経たちは、邪鬼たちを取りまとめる謎の魔人・黒滝の尼の罠と仲間の裏切りにより、一転窮地に立たされます。

 一方、屋敷の外を固める巴たちの前には、半ば不死鬼、半ば餓鬼(死人の血を吸い、異形と化した邪鬼)という怪物・屍鬼王が出現。血吸い鬼としての弱点を持たない屍鬼王に、影御先は次々と屠られていくことになります。
 義経と弓使いの娘・氷月は仲間たちの犠牲により辛うじて地底の地獄を脱出、巴も異変に駆けつけた木曾義仲・今井兼平ら、木曾の荒武者たちによって救出されたものの、濃尾の影御先はほぼ壊滅状態となるのでした。

 しかしそれでも彼らは戦いを止めるわけにはいきません。影御先の秘宝である四種の霊宝のうち、戸隠山に隠された豊明の鏡、そして東の影御先が守る小角聖香を狙い、黒滝の尼が動き出したのですから。
 かくて身を休める間もなく、義経・氷月・巴らは、絶望的な戦いに挑むことに……


 というわけで、冒頭から結末まで、ほとんど全編に渡り、影御先と血吸い鬼の死闘が描かれる本作。基本的な設定は既に前作に語られている分、本作では思い切りバトルに振った印象で、一時たりとも息は抜けません。
 特に本作の前半部分、熊井長者屋敷地下は、何が飛び出すかわからない、まさしく地底魔城というべき地獄。罠の詰まったまさに敵の根城で、しかも味方と様々な形で分断されての戦いは、主人公側が苦闘を強いられることが非常に多い作者の作品の中でも、屈指の絶望度と言うべきでしょう。

 一方、そんな中で数少ない救いとなっているのが、木曾義仲と今井兼平の存在です。
 言うまでもなく、木曾義仲は河内源氏の出身で、義経とは従兄弟同士――後に義経同様平家に対して挙兵し、朝日将軍とも呼ばれた人物。そして今井兼平は義仲の乳兄弟であり、四天王とも呼ばれた勇将であります。
 そんな彼らの後の姿はここでは置いておくとして――本作の義仲は、不器用でぶっきら棒な荒武者ながら、心は熱く温かいものを持った好漢。そして兼平は冷静沈着ながら民を愛し慈しむ心を持つ人物として描かれます。

 そんな二人の姿は、邪悪な人外の魔物や、人間でも醜い権力や金の亡者たちが蠢く物語の中で、数少ない「生きた人間」として描かれ、こちらの胸を熱くさせてくれるのです。


 その他、徐々に明らかになる黒滝の尼の伝奇的な正体や、いわば本作版のゾンビというべき餓鬼や様々な動物の血吸い鬼の登場、そして最終兵器ともいうべき四種の霊宝の存在と――ぎっしりと詰め込まれたアイディアと起伏に富んだ展開で、最後まで一気に読まされてしまう本作。

 まさにこれぞ時代伝奇と言うべき内容なのですが、黒滝の尼という、明確に「悪」との戦いに終始した印象が強く、前作にあった、血吸い鬼という存在を通した人間性への問いかけとも言うべき要素が薄く感じられた――そしてそのために義経の戦いがさらに苦く感じられた感は否めません。

 まだまだ邪鬼たちとの戦いが続く中、義経が武士として、人として辿り着く道はどこにあるのか――この先の物語で、険しくとも希望の光が描かれることを期待したいと思います。


『源平妖乱 信州吸血城』(武内涼 祥伝社文庫) Amazon

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