« 野村胡堂『江戸の紅葵』 二つの顔の快剣士、安政の大獄に挑む | トップページ | 石ノ森章太郎『闇の風』 若君忍者の戦い、衝撃の結末! »

2020.05.07

横山光輝『伊賀の影丸 地獄谷金山の巻』 女性忍者と拷問と火術使いと

 ある晩、忍者に襲われた男が死の間際に残した「隠し金山」の言葉を聞いた服部半蔵。男の死体の特徴から甲府に目をつけた半蔵は、影丸らを派遣する。しかし甲府到着早々に仲間の一人が討たれ、以後も謎の忍びの襲撃が相次ぐ。そして探索の最中、影丸は捕らえられて激しい拷問を受けることに……

 『伊賀の影丸』各エピソード紹介も後半戦。今回はある意味原点回帰というべき「地獄谷金山の巻」であります。

 服部半蔵が偶然出会った瀕死の男から「隠し金山」の言葉を聞かされたことから始まるこのエピソード。初めは全く正体不明だったものの(それでも松平伊豆守から探索を無茶振りされてウェッとなる半蔵が味がある)、甲府が怪しいと目星をつけた半蔵によって影丸と仲間たちが派遣されることとなります。

 しかし影丸と派遣された4人の隠密のうち、兵衛は謎の敵にあっさり殺され、残るは土蜘蛛、早耳頑十郎、嵐月之助のみ。その後も続く敵の攻撃をかいくぐる中、敵の正体が飛騨忍群であること、そして地獄谷に金山が隠されていることを知る影丸たちですが……


 というわけで、久々の印象もある、非常にオーソドックスな探索ものである今回。影丸たち味方サイドはともかく、敵側の忍者はあまり個性的ではなく、トーナメントバトルというより、「味方と(障害となる)敵の戦い」という印象があります。
 そんなこともあって、本作においては正直なところ地味さで一、二を争うエピソードなのですが、特色ももちろん存在します。

 その一つ目は、女性忍者・桔梗の存在。普通の忍者ものであれば、くノ一が様々な形で作品の華として活躍するものですが、実に本作においてはこの桔梗は全編通じてほぼ唯一の女性忍者。ある意味「らしい」というか、驚きというか――であります。
 ちなみにその桔梗、ビジュアル的にはキツめの美少女でなかなか良いのですが、忍者としての実力はいまいち――といったところで、敵の中でも戦闘要員としては数えられていないように見えるのが、また本作らしいと感じさせられます。

 そして二つ目は、影丸が珍しく捕らえられ、拷問を受ける場面がある点であります。これまでの戦いで、影丸が重傷を負って戦線離脱することはあったものの、捕らえられるという、ある意味死ぬよりも不覚を取ったのは、かなり意外に感じます。
 しかも、捕虜を取れば大体催眠術で情報を聞き出す(このエピソードでもそうした場面はあるのですが)本作で、拷問で情報を吐くよう迫られるというのも意外かつ痛ましく、妙に印象に残った次第です。

 そして印象に残ったといえば、このエピソードのゲスト忍者の一人・嵐月之助であります。
 火術の月之助の異名を取る彼は、それに恥じぬ多彩な術の使い手。基本は爆破なのですが、そこまでに持っていくバリエーションが豊富なのに加えて、防御技(相手が絡めてきた縄を焼き切る場面が格好良い)や催眠術まで使う、かなり万能な術者であります。

 今回の敵である飛騨忍群は、質よりも量で押してくるタイプ(上述の影丸の不覚もそれによる印象もあります)なのですが、そういう相手には、広範囲をまとめて爆破する月之助の術は最適。
 ことに、奧の手である「火走り」の術は、名前から察せられるとおり四方八方に炎が走るド派手な術で、その繰り出されるシチュエーションも相まって(特に二度目は名場面!)、強烈に印象に残り、ほとんどこのエピソードの準主役と言ってもよいかと思います。


 と、この「地獄谷金山の巻」、物語は地味なわりには、個々の要素が妙に印象に残るという、何だか不思議なエピソードでありました。


『原作愛蔵版 伊賀の影丸』第6巻(横山光輝 講談社KCデラックス) Amazon

関連記事
 横山光輝『伊賀の影丸 若葉城の巻』(その一) 超人「的」忍者vs超人忍者
 横山光輝『伊賀の影丸 若葉城の巻』(その二) 乾いたハードさに貫かれた死闘の中で
 横山光輝『伊賀の影丸 由比正雪の巻』 質量ともにベストエピソード!?
 横山光輝『伊賀の影丸 闇一族の巻』 兄弟忍者の死闘が生む強烈な無常感
 横山光輝『伊賀の影丸 七つの影法師の巻』 純度を高めたトーナメントバトルの頂点
 横山光輝『伊賀の影丸 半蔵暗殺帳の巻』 「正義」なき忍者ヒーローの殲滅戦
 横山光輝『伊賀の影丸 邪鬼秘帖の巻』 影丸と邪鬼 宿敵同士がお家騒動に挑む異色編
 横山光輝『伊賀の影丸 土蜘蛛五人衆の巻』 影丸の「私闘」と彼の人間味と

|

« 野村胡堂『江戸の紅葵』 二つの顔の快剣士、安政の大獄に挑む | トップページ | 石ノ森章太郎『闇の風』 若君忍者の戦い、衝撃の結末! »