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2020.05.28

大西実生子『フェンリル』第2巻 新たなる仲間とテムジンの求める世界を結ぶもの

 かのテムジン=チンギス・カンが、宇宙からやって来た美女の助けを借りて世界統一に乗り出すという、奇想天外なSF歴史漫画の第2巻であります。

 偶然落ちた湖の底で、青く輝く狼と、美しい裸女に出会った青年テムジン。自らを「地を揺らすもの(フェンリル)」の化身と語る彼女こそは、かつて宇宙からこの星に墜落した金属生命体であり、地球の引力圏から脱するために、テムジンに近づいたのであります。
 テムジンがフェンリルを水中から引き上げようとする最中、集落を襲うタイチュウト族。皆を逃がすために戦った末に力尽きたテムジンに、フェンリルは自らの命を分け与えるのでした。

 復活したテムジンは、タイチュウト族の将を討つと、かつて自分の父の盟友であったケレイト族の長老トオリル・カンの力を借り、タイチュウトと戦うことを決意するのですが……


 かくて、フェンリルの導きによって、世界の王となるべく第一歩を踏み出したテムジン。この巻の冒頭で語られるのは、その彼にトオリル・カンから与えられた兵――三人の蛮戸兵との出会いであります。
 一人が二十騎に匹敵する力を持ちながらも、そのあまりの異文化ぶり、そして何よりも剽悍さでケレイトでも持て余し、獣のような扱いをされていた蛮戸兵。ファーストコンタクトからその力に圧倒されるテムジンですが、しかしその後の彼の反応こそは、ある意味この巻の白眉と言うべきでしょう。

 フェンリルの導きもさることながら、それ以前から、単なる草原の一部族の若者に収まらない、独特の視点を持っていたテムジン。いやその彼の視点は、フェンリルとの出会いによって、遙か世界の彼方まで広がる視野となったと言うべきでしょうか。
 いずれにせよ、彼にとっては生まれも育ちも文化も信仰も異なる、女戦士すら存在する蛮戸兵の存在は、彼が求める多様性の象徴、彼の求める世界の縮図なのであります。

 ほとんど裸一貫から身を起こした若者が、異能の仲間たちの力を借りて戦場に風雲を起こす――というのは、これは古今東西を問わず、国盗りもの、戦国ものの定番であります。
 しかしその定番の中でテムジンの非凡さを浮き彫りにしてみせるのは、これは本作ならではの独自性と言うべきでしょう。

 世界帝国を築いた英雄であると同時に、情け容赦のない征服者としてのイメージも強いチンギス・カンですが――その若き日の姿を描くに、このようなアプローチで描くというのは(その実像がどうであれ)面白い試みであると思います。


 もっともそのテムジンの先進性と器の大きさが、あまりにも優等生に見えてしまうのもまた事実。
 特にここでの敵であるタイチュウト族長のタルグタイが、ビジュアルといい言動といい、あまりにもわかりやすい悪役として描かれているだけに、主人公の優遇ぶりが際立って感じられてしまうのは、残念に感じられるのですが……

 何はともあれ、いよいよ次の巻で描かれるであろうテムジンとタルグタイの激突の中で何が描かれるのか――注目であります。


 ちなみに基本的に歴史上の人物がほとんどの本作の中で(蛮戸兵はともかく)タイチュウト側の弓使い・ラキザミは聞いたことがない名前だと思ったら……


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