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2020.05.15

久正人『ジャバウォッキー』第3-4巻 アダムの肋骨、切り裂きジャック――恐竜伝奇絶好調!

 人間の美女と恐竜のナイスガイのコンビが、歴史の背後に蠢く恐竜たちの陰謀に挑む『ジャバウォッキー』も、この第3巻・第4巻まで来ると完全にエンジン全開――歴史上の人物・事件を絡めた奇怪かつ意外な「真実」と、スタイリッシュなアクションの連発に酔いしれるほかありません。

 ある任務の最中、恐竜たちが絶滅することなく、二足歩行に進化して人類史の裏側で暗躍していたことを知った英国情報部員のリリー。人類と恐竜の架け橋として活動する「イフの城」のエージェントにして恐竜のガンマン・サバタに命を救われたリリーは、サバタとともに様々な事件に挑むことに……
 という基本設定で展開する本作、第3巻では、生まれたばかりの毛沢東暗殺を狙う清朝の暗殺者・ミクロラプトルの女王と対決する「RED STAR」の事件を冒頭で解決し、メインとなるのは「ADAMS RIB」――すなわちアダムの肋骨にまつわる事件です。

 トロイの遺跡を発掘したことがきっかけで、ピンカートン探偵社に命を狙われるハインリヒ・シュリーマン。
 アメリカ政府の要請でトロイ遺跡を発掘したシュリーマンですが、発掘の最中に最初の恐竜エオラ(人間語でアダム)の肋骨――すなわち旧約聖書が恐竜たちの伝説の焼き直しである証拠――発見してしまった彼は、イフの城に保護を求めてきたのであります。

 ピンカートン探偵社のメンバー(複数いるのに全員同じ名前で呼び合うのが楽しい)を蹴散らし、シュリーマンを保護したリリーとサバタ。しかしアロサウルスのガンマン・ジャンゴの狙撃によってシュリーマンは死亡、アダムの肋骨も奪われることになります。
 実はジャンゴこそはかつてサバタの妹を殺し、彼の右手を奪った(そしてお返しにサバタに左目を奪われた)男――そしてイフの城の宿敵である恐竜たちの狂信者集団・有翼の蛇教団のメンバー。宿敵を倒し、アダムの肋骨を奪い返すため、リリーとサバタは傷を負った身を押して、敵地に乗り込むことに……

 と、二重の意味で宿敵が登場し、作品全体としても大きな意味を持つこのエピソードですが、しかし物語としても負けていない伝奇強度(?)を持っているのが楽しいところでしょう。
 何しろゲストがあのシュリーマン(それも本作ならではのとびきりエキセントリックなキャラ)であるだけでも嬉しいのに、メインとなるのがアダムの肋骨というとんでもない大ネタ。もちろん本作に登場してただで済まされるはずもなく、どちらも大変な扱いになるのですが――神も悪魔もあるものか、なリリーとサバタの活躍は痛快の一言であります。


 そして第4巻では、ロンドンを舞台にこれまた有名人の切り裂きジャック、そしてナイチンゲールという意外な顔合わせが実現する「ONE FOR THE ROAD」が収録されています。
 イフの城の連絡員であるプロトケラトプスのアボラ・サンダ(……)の、切り裂きジャックの正体はヴェロキラプトルのバニラス・ガイラ(……)という報により、ロンドンにやってきたリリーとサバタ。

 ロンドン地下恐竜街の住人であったガイラを追う二人ですが、死を装って英国情報部を抜けてきたリリーにとって、いまやロンドンは敵地同然。しかも切り裂きジャックを追って動き出した情報部が送り込んできたのは、実はスパイであったフローレンス・ナイチンゲールその人だったのであります。
 しかもリリーにとってナイチンゲールは様々な形で因縁深い人物。思わぬ強敵に動揺を隠せないリリーですが……

 と、前回のサバタの側の因縁に対して、リリーの側の因縁が描かれる今回。舞台となる1890年のナイチンゲールは既に老人ですが、ここに登場するのはやはり本作らしく凶悪にパワーアップされた怪人であります。
 なるほど、因縁抜きにしてもリリーが手こずるわけだ――と思いきや、思いもよらぬ泣かせが用意されているのも、クールなようで熱い展開の多い本作らしいと感じます。
(にしても今回、ジャックの声明文のミスや5番目の殺人の時差まで題材になっているのには、改めて感心させられます)

 しかし個人的にそれに負けぬほど印象的だったのは、人間に圧倒されたロンドンの恐竜たちが潜む地下恐竜街の姿であります。
 元々切り裂きジャックが跳梁したイーストエンドは、ロンドンでも貧民街として知られる地域ですが――ここで描かれる地下恐竜街は、それをさらにカリカチュアしたような、まさしく最暗黒の倫敦。

 かつての地球の覇者であり、人間同様の知性を持つ恐竜たちが泥にまみれてのたうつ姿には、何とも暗澹たる想いを抱かされるものがあり――リリーとサバタの前に立ちはだかる恐竜たちの背負うものの大きさというものを、すなわち本作が内包するものを、改めて感じさせられるところであります。


『ジャバウォッキー』(久正人 泰文堂アース・スターコミックス) 第3巻 Amazon / 第4巻 Amazon

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