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2020.06.01

小山ゆう『颯汰の国』第4巻 卑劣なる敵の罠 そして明かされた出自

 主家を取り潰され、幕府に一矢報いるべく奮闘を繰り広げる高山藩の人々の姿を描く『颯汰の国』の最新巻であります。奇想天外な策で自分たちの居場所を得たものの、それを叩き潰し、そして琴姫を奪うべく攻撃を繰り返す敵の魔手は、陰湿な形で迫ることに……

 ある日突然に幕府によって取り潰され、藩主は切腹を命じられた高山藩。これに対し、佐々木颯汰をはじめとする藩の人々は、藩主の若君と琴姫を盛り立てて幕府に一矢報いるべく、隣り合った幕府の直轄領から横暴な代官を追放――土地の人々と協力して、新たな国を作るのでした。

 しかしもちろん、これがただで済むはずはありません。開城の使者となった好色な大名・横山宗長は、土地を奪還し、何よりも琴姫を奪うべく、執拗に攻撃を仕掛けてくることになります。
 周囲の人々の助けを借りて、その迎撃の中心人物となり、次々と奇策でもって宗長の攻撃を打ち破っていく颯汰。しかし戦闘の最中に、琴姫に忍びの魔手が迫ることに……


 時に自分たちの手を血に染めながらも、これまではほとんど犠牲を出すこともなく、自分たちの国を守ることに成功してきた颯汰たちですが、この巻では、ついに数々の犠牲が出ることになります。
 颯汰たちによって、これまで散々煮え湯を飲まされてきた宗長。しかし残忍さや執念深さ、奸悪さといった人間性の悪を煮詰めたようなこの男は、直接的な攻撃ではなく、搦め手で――すなわち兵ではなく忍びを使った攻撃を仕掛けてきたのであります。

 兵の攻撃の背後から忍びを放ち、琴姫誘拐を狙う。土地の人々の家に夜な夜な放火して回る――特に後者は地味といえば地味ですが、いつ自分たちが被害に遭うかわからないという点、そして何よりも颯汰たちと彼らに協力する土地の人々の間に亀裂を生じさせるという点で、実に厭らしく、そして効果的な策であります。

 なるほど、戦国時代の遺風をそのまま残したような宗長ならではの策ではありますが――しかし非戦闘員までも巻き込んだ策は卑劣というほかありません。
 そして非戦闘員は、何も土地の人々のみではありません。琴姫のおつきの者たち、そして何よりも颯汰の父もまた、戦闘においては戦う手段を持たぬ者なのですから。

 そしてその颯汰の父が、己の無力さに苦しむ姿は、この巻において最も精神的にキツい展開と言えるでしょう。
 戦闘員ではなく、いわば文官として仲間に加わり、普段は土地の人々に学問を教えている颯汰の父。そんな彼にとって、周囲の者が襲われてもロクに刀を振るうこともできず、そして教え子である土地の人々が襲われても防ぐことができず、そして敵意までも向けられる境遇がどれだけ辛いものであるか――察するに余りあるものがあります。

 そしてそんな中に、最愛の「息子」である颯汰までもが……


 と、この巻の後半では、ついに周囲の人々に――いや何よりも颯汰自身に、彼の出自が明らかになるという展開が描かれることになります。

 家康の落胤という彼の出自自体は既に作中で描かれ、読者である我々には周知の事実でありましたが――しかしそれが限られた人々とはいえ、明らかになった時に何が起きるか。
 切り札となるのか、それとも――少なくとも、この事実が今後の台風の目となることだけは確かでしょう。


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