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2020.06.19

ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第4巻 地方から見る応仁の乱の空間的、時間的広がり

 若き日の北条早雲――伊勢新九郎の青春を描く『新九郎、奔る!』もこの第4巻で新章に突入。都を離れ、父の名代として所領である荏原に入った新九郎を待つのは、意外な事態――これまでとは異なる苦難に新九郎は挑むことになります。

 京で暮らすようになってほどなく勃発した応仁の乱に巻き込まれ、戦火の中で元服した新九郎。彼なりに乱と向き合おうとする新九郎ですが――今出川様に仕えていた兄・八郎が、主に従って京を離れようとした時、伯父の盛景に殺害されるという事件が、新九郎に大きな衝撃を与えることになります。
 そしてその悲劇から数年、少しだけ逞しくなった新九郎は、父の名代として、領地の東荏原に向かうことになったのであります。

 実はこの頃には(細川勝元の策の結果)応仁の乱は洛中から地方に飛び火し、各地の守護と土地の諸勢力の争いが激化。
 備中と備後の国境の荏原はその争いとは直接の関係はなかったものの、備後で勃発した乱の余波がいつこちらに来るかわからない――そんな状況で、京を離れられない父に代わり、新九郎は荏原での対応に当たることになったのです。

 しかしいざ荏原に着いてみれば、父の領地である東荏原と、伯父(あの盛景)の領地である西荏原の境界が曖昧な上、年貢の取り分も不明瞭。何よりも、父が――そして新九郎が東荏原の領主として民に認識されていないのであります。
 これは父が京での政争に明け暮れて、領地を顧みなかったためではあるのものの、当然そのままにはしておけません。何とか状況を打開しようとする新九郎ですが、空回りするばかりで……


 これまで、応仁の乱の最中の京洛という、歴史が音を立てて動くど真ん中で――もちろんその視点は、中心から少しずらした本作独特のものではあったのですが――描かれてきた本作。しかしこの巻は、そこから大きく外れた地方が舞台となります。
 正直なところ、いきなりミクロな展開となるのではないか、地味なお話になるのではないか――とも読む前は思ったのですが、もちろんそんな心配は無用のものでありました。

 もちろん、この巻の物語が、いきなり領主の名代という大役を背負わされた、そして京洛という、深いようで狭い世界しか知らなかった少年・新九郎の成長物語として面白いのは言うまでもありません。
 しかし何よりも感心させられるのは、一旦中央から離れた地方に舞台を移すことで、室町時代後期の世相・社会像の変化を――その引き金となった応仁の乱の広がりという点を含めて――物語と有機的に絡めて提示してみせた点であります。

 応仁の乱と言った場合、どうしても連想してしまうのは、その引き金となった複雑怪奇な室町政界の有様と、文字通り京洛が灰燼に帰することとなった激しい戦いの様相でしょう。
 しかし乱はそこだけで行われたものではなく、それだけに終わったものでもない――そんな乱の空間的、時間的広がりを、本作はこの荏原での物語と絡めて、巧みに描いてみせるのです。

 そしてその先にあるのが、新九郎が大活躍する戦国の世であることは言うまでもありませんが――その縮図を、荏原における伊勢家内部の争いという、一種過激なホームドラマとして描いてみせるのも、また本作らしいところであるといえるでしょう。


 おそらくは、この荏原での新九郎の経験が、後の北条早雲としての国造りに役立つことになるのだとは思いますが――さてそこに至るまでに何があるのか。ヒロイン的なキャラクターの登場もあり、新九郎のこの先が、今まで同様、いやそれ以上に気になってしまうのであります。


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