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2020.06.09

黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第17巻 二つの出会いが呼ぶ明るい空気 の後はやはり……

 近藤の死と沖田の死という辛すぎる出来事が続いたものの、土方が復活し、少しだけ明るい空気が漂う新選組。しかしいまだ新政府軍との戦いが続く中、何とか周囲の役に立とうと奮闘する鉄之助の前に現れた意外な人物とは?

 近藤の死によって深い絶望の淵に沈み、廃人同様となった末、沖田の死によって自らも死を選ばんとした土方。しかしその沖田の最後の言葉、そして彼を深く案じる鉄之助や斎藤、島田らの想いに応えて土方は復活、久々に新選組にも笑顔は戻ることになったのですが――しかし新政府軍との戦いは未だ続き、白河小峰城を巡る戦いは膠着状態であります。

 そんな中、銃を主体とする戦闘の中で周囲の役に立つべく、兄の遺した銃を使いこなすために奮闘する鉄之助。しかしそれまでとはあまりに勝手の違う戦いに悩む鉄之助ですが――その前に現れたのは、会津の銃士を名乗る三郎なる青年でありました。
 そして彼に誘われて羽鳥村の野戦病院を訪れた鉄之助の前に現れたのは、京で別れた沙夜で……


 ? 一巻くらい読み飛ばしてしまったかな? と思ってしまったこの展開――というのもこの沙夜、あの名前を出すのも厭な鈴に囚われ、ここしばらくは延々といたぶられ続けていたはず。それが何故、いきなり会津で、しかも女医的な立場になっているのか……?

 というこちらの困惑も知らずに、奇跡的な再会を喜ぶ鉄之助。京ではあとわずかで彼女の手を取って共に行けるところだったのを引き裂かれた最愛の人が、自分の目の前に現れたのですから、喜ばないはずはないのですが――さてこれを素直に喜んでよいものか。
 先に述べた通り、鈴に囚われの身であったはずの沙夜。その彼女が、鉄之助が戦いを繰り広げる会津に現れたというのは、偶然であろうはずがありません。そもそも、本作において、明るく盛り上がる展開があった次は、必ずズドンと暗く落ち込む展開があるはずなのですから。


 と、そんなこちらの疑心暗鬼に満ちた失礼極まりない決めつけをぶっ飛ばすような新キャラクターが、この巻には登場します。
 それが上に述べた三郎――左頬に傷を持つ「ハンサム」な長身の青年の正体は、ハンサムはハンサムでも「ハンサムウーマン」。自称「会津の戦乙女」山本八重……!!

 お、おう、この作品の八重はこうなるのか……と驚いたような納得したような、豪放極まりない男装の麗(?)人。彼女の正体を知る前の鉄之助が、銃を教わるために思わず「何でもします」と言ってしまったのに野獣の眼光をギラつかせる姿には、この世界の新島襄ってどんなキャラなんだろう――と思わず未来のことを考えてしまったほどであります。

 それはさておき、陰――というより病的なものを感じさせるキャラクターが多い本作において、珍しい陽性(というか獣性)の塊のような八重。
 これまで暗い展開が続いていただけに、彼女の存在は、上で述べた沙夜との再会も相まって、本作に一気に明るい雰囲気をもたらしたと言えるでしょう。
(鉄之助と沙夜のために骨を折る斎――山口さんや、鉄之助の彼女に驚く土方の姿などもあって……)


 が、やはり本作は本作、明るい展開の次は――であります。白河城の奪還どころか、新政府軍に押された末に、鶴ヶ城――会津若松城に籠城を余儀なくされる会津の人々。
 辛うじて沙夜や城下の人々が逃げ込むだけの時間を八重とともに稼いだ鉄之助(ここでも八重の暴れっぷりが痛快!)ですが、しかしここで鉄之助を待っていたのは、思いもよらぬ地獄絵図だったのであります。

 ここに至る前、城下の惨劇を前にして改めて指摘された鉄之助の致命的な弱点――敵に対する殺意のなさ。それはもちろん只人であれば(そして漫画の主人公であれば)美点であることは間違いありませんが、しかし戦場においては、それは自分を、いや周囲を害しかねない、まさに致命的な欠点となります。

 そしてそれを最も残酷な形で指摘し、そして「克服」させようとするこの展開。
 やはり明るい展開の次には地獄が待っていた――そんな自分の予感が当たってしまったことを恨むほかない、やはり次の巻を読むのが恐ろしくて仕方ない作品であります。


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