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2020.06.11

たみ『幕末隠密伝 ブレイガール』第1巻 無礼上等、三人の美女が幕末の悪を斬る!

 これまで『さんばか』『クロボーズ』など、個性的な時代漫画を生み出してきた、たみと富沢義彦のコンビが送る新たな作品――幕末の京を舞台に、勝海舟に見込まれた青年剣士と、無礼なくのいち三人組が許せぬ悪を人知れず裁く、痛快アクション時代劇であります。

 尊皇攘夷の嵐が吹き荒れる文久三年の京で評判の南蛮菓子屋・朝陽屋――看板娘のマサナとコザサ、菓子作り担当のアンジュと小此木一真を中心に、今日もも忙しく南蛮菓子を売るこの店の正体は、京の町の情勢を探り、そして市井の名もなき人々を守る公儀隠密零番隊『八咫烏』の根城。かの勝海舟が設置した秘密機関であります。

 伊賀のマサナは忍びの本家 地駆け天飛び軽業無双
 根来のアンジュはからくり上手 わけて銃には覚えあり
 甲賀のコザサは惑いに誘う 古き忍びの元祖なり

 今日も乱暴狼藉を重ねる自称・志士の若侍たちと、彼らと裏で結んだ同心たちによって父を殺され、苦しむ一家の存在を知った一真たち。三人の無礼上等のくノ一は、得意の技を用いて悪党退治に向かうことに……

 時代が動く京都の闇で、悪の笑いがこだまする。声を殺して泣く人の、涙背負って悪事の始末。公儀隠密『八咫烏』。お呼びとあらば、即参上!


 と、一定の年齢以上の方には特徴的なジングルが聞こえてきそうなタイトルの本作。
 内容的にはむしろチャーリーズ・エンジェル+ブライガーといったところか――というのはさておき、三人の美女が法で裁けぬ悪を裏で葬る痛快活劇であります。

 しかし、一定のフォーマットに則った作品のように見えても、常に仕掛けを用意してくるのが本作の原作者。
 この第1巻の前半では、自称志士の武家のドラ息子や、芝居小屋を根城に娘たちを拐かす人買い一味といった、ある意味定番の悪役との対決が描かれますが、後半で彼女たちが対決するのは――なんと壬生浪士組なのですから驚かされます。

 この文久三年は、清河八郎と決別した浪士組が、壬生浪士組として――すなわち新選組の前身として活動していた時代。そしてその局長であった芹沢鴨とその一派が、町の商家で押し借りを行い、町を騒がせていたのは、よく知られた話であります。
 なるほど、芹沢一派であれば三人のくノ一が相手にするのに不足なし――と言いたいところですが、しかしここで描かれるのは彼女たちの意外な苦戦なのです。

 そもそも同じ忍びであっても流派は異なるくノ一三人。八咫烏での活躍で流派の再興を成し遂げようという望みは共通するものの、チームワークや信頼関係というものは、寄せ集めであり、ある意味ライバルである彼女たちには存在しません。
 そしてそれは一真も同様。チームの司令塔であり、上官の立場であっても彼はあくまでも武士――忍びである彼女たちとは立場も考え方も、自ずと異なるのですから。

 そんな三人、いや四人が、集団戦という点においては幕末屈指の相手に苦戦を強いられるのは、むしろ当然と言うべきでしょう。


 そしてまた、元々は武士ではない者たちも在籍し、そして武士であっても破落戸のような行動を見せる壬生浪士組と、武士であっても菓子屋に身をやつし、しかし真の武士たらんと志を抱く一真に率いられる八咫烏――この両者は、ある種の合わせ鏡のようにも感じられます。

 そしてそんな対照的な両者が激突する先に浮かびあがる――それは一真にとっての、八咫烏にとっての真に戦う理由であり、それまでの八咫烏に欠けていたものといえるでしょう。
 この第1巻のラストでようやくその一端が見えた八咫烏が、この先どのような活躍を見せるのか――ようやく勝海舟からの正式な指令を受け、いよいよ新たな任務に挑む彼女たちのこれからの活躍に期待であります。


『幕末隠密伝 ブレイガール』第1巻(たみ&富沢義彦 集英社ジャンプコミックスDIGITAL) Amazon

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