« 岡本千紘『鬼切の綱』 鬼退治の勇士と鬼の奇妙な幻想譚 | トップページ | 楠桂『鬼切丸伝』第11巻 人と鬼と歴史と、そしてロマンスと »

2020.06.04

吉川景都『鬼を飼う』第6巻 結末目前、収束する奇獣を巡る運命

 奇怪な姿と奇妙な能力を持つ幻の獣・奇獣を巡る物語もいよいよクライマックス。2ヶ月連続刊行の第6巻と第7巻で、『鬼を飼う』も完結であります。奉天と東京で繰り広げられていた奇獣を巡る事件はついに一つに収束し、結末に向けて動き出すことに……

 本郷の奇獣商・四王天と、彼の店に入り浸る帝大生・鷹名の周囲で次々と起きる奇獣絡みの事件。彼らや、特高の対奇獣部隊「夜叉」を巻き込んでいく事件の背後には、奉天の怪軍人・宍戸の存在がありました。
 奉天の奇獣商・琳花と結び、奇獣の軍事利用のために暗躍する宍戸。奇獣「ナンバー04」――150年前に目撃されて以来、消息不明であり、恐るべき殺傷力を持つという奇獣の確保が真の狙いであった宍戸は、奇獣商の元締め・ザイードと手を組み、ナンバー04確保に向けて動き出すのでした。

 一方、ナンバー04と深い因縁を持つ四王天も、自分の残りの人生を賭けてこれを追い、実は父が四王天の親友だった夜叉の隊長・三条もまた、不承不承ながら彼と協力することになります。
 そして宍戸の放った奇獣の毒に倒れたアリスと、彼女を救わんとする鷹名と司。自分の運命を狂わせた奇獣を奉天で追う新聞記者・天久と彼を助けようとする中国人姉弟。日本で独自に奇獣を追う天久の親友・徳永と(元)女給の竜江。夜叉の後ろ盾であり、今はザイードの傀儡となりつつある日本政府の六人会議……

 奇獣を追い求め、翻弄されてきた人々の運命が、いよいよ一点に向かい動き始めたのであります。


 かくて、結末に向けて怒濤の如く動き出した感のある本作。事ここに至れば、当初のような奇獣を巡る人情味のある奇譚・怪異譚の要素はほとんどなくなり(この巻の巻末の番外編にそれは残ってはいるのですが)、鷹名と司のコンビの出番もかなり少なくなっているのは少々残念ではあります。

 しかし、これまで物語に登場してきた身分や職業、人種もバラバラな人々の運命が思わぬところで結び付き、物語を貫く秘密に真実の光を当てていく様こそは、伝奇ものの王道。そしてこの巻に横溢しているのは、まさにその伝奇ものの醍醐味であります。
(以前も述べましたが、正直なところ、本作が始まった当初はここまでストレートな、そしてオリジナリティ溢れる伝奇ものになるとは思いもよりませんでした)


 そしてそんなこの巻において、最も印象に残るのは、いまや物語の一つの極とも言うべき(より正確には極であることを隠さなくなった)四王天の過去でしょう。
 これまで断片的に描かれてきた彼の過去――数少ない親友との交流や三条との因縁、そして何よりも、彼が何故奇獣商となったかを描くこのエピソードは、まさしくこの物語の基点を成すものというべきでしょう。

 しかしその一方で、本作にはもう一つの極が――すなわちアリスと鷹名の存在があります。

 四王天にとっては、そしてナンバー04を巡る物語においては、ある意味イレギュラーな存在である二人。そして四王天の物語が過去に縛られているとすれば、二人にはこの先の未来があるという点で、対極的と言えるかもしれません。
 しかし同時に、アリスと鷹名の物語には、未来という言葉とは裏腹の常に暗い影が――血と死の影がつきまとってきたのもまた事実であります。

 果たして二人の迎える未来が如何なるものなのか、いやそもそも二人に未来はあるのか――いや、二人に限らず、全ての登場人物たちの物語がいかなる未来を、結末を迎えるのか。
 残すところあと一巻、少しでも笑顔のある結末を期待したいのですが……


『鬼を飼う』第6巻(吉川景都 少年画報社ヤングキングコミックス) Amazon

関連記事
 吉川景都『鬼を飼う』第1巻 薄暗い世界の温かい日常
 吉川景都『鬼を飼う』第2巻 異形の人情譚と骨太の伝奇物語と
 吉川景都『鬼を飼う』第3巻 大人サイドと青年サイドで描く二つの奇獣譚
 吉川景都『鬼を飼う』第4巻 鷹名を待つ試練と彼を見守る者
 吉川景都『鬼を飼う』第5巻 奇獣争奪戦の中の彼の血の意味

|

« 岡本千紘『鬼切の綱』 鬼退治の勇士と鬼の奇妙な幻想譚 | トップページ | 楠桂『鬼切丸伝』第11巻 人と鬼と歴史と、そしてロマンスと »