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2020.06.23

廣嶋玲子『妖怪の子預かります 10 千弥の秋、弥助の冬』 大団円 そして「子」は成長して――

 謳い文句のついに大団円! と不穏極まりない言葉にドキッとさせられますが、その言葉に偽りはなく、『妖怪の子預かります』シリーズ第10巻目にして、区切りとなる作品であります。徐々におかしくなっていく千弥と、そんな彼に苛立ちを隠せない弥助。ついに決別した二人の運命は……

 今日も変わらず、妖怪の子預かり屋として奮闘する弥助。しかし彼と共に暮らす千弥は、異常なまでに過保護な態度が目立つようになります。いや、以前から過保護だったのは間違いありませんが、いまの千弥はまるで弥助が幼く体が弱かった頃のように扱うなど、度が過ぎるのです。
 その上、物忘れが激しかったり、ぼうっとしていたりと、明らかに不審な様子の千弥。当然心配する弥助に対して、何でもないと言うだけの千弥ですが――そんな千弥の行動が、妖怪の子に危害を加えかねないものとなったことから、ついに弥助の怒りが爆発することになります。

 それでも何とか和解した二人ですが、その後も続く千弥の異常な行動。そしてついに決定的な瞬間が訪れ、千弥は弥助の前から姿を消すことに……


 これまで弥助のことになると過保護ではあるものの、それ以外では普段は冷徹とすらいえるほど落ち着いた態度を見せていた千弥。そんな彼の弥助に対する態度が徐々におかしくなっていき、それどころか日常生活までも――と、不穏極まりない展開から始まる本作。
 作中でもさらりと触れられているように、この辺り、年配の親を持つ読者であればグサリとくるような描写なのですが――しかしその理由がなんであるか、これまでシリーズを読んできた読者であればよく知っています。

 前々作において、月夜公に執着するあまりに千弥を逆恨みした狂気の女妖・紅珠――彼女の毒に倒れた弥助を救うため、千弥はかつて捨て去った自分の目玉を取り戻し、その力を振るったことがありました。しかしそれは妖怪にとっては致命的な、誓いを破る行為――その報いが、現れたのであります。

 過去のある出来事から一度は全てを失って抜け殻のようになった千弥に救われ、そして救った弥助。一時は共依存のような状態だった二人ですが、しかし弥助が妖怪の子預かり屋として奮闘するうち、その関係は徐々に落ち着いたものとなっていきました。
 それがここに来て、千弥の中から弥助の存在が、最も残酷な形で奪われていくとは――これまでユーモラスで楽しげな妖怪たちを描くと同時に、辛く重く残酷なこの世の有様を描いてきた本シリーズですが、ここに来てその最たるものが描かれたというべきでしょうか。

 もちろん、そんな二人を、周囲の人々と妖々が放っておくはずもありません。
 特に弥助にとっては天敵であった――しかしある意味作中で最も男を上げた――久蔵、そして千弥とは倶に天を戴かざる間柄であった(しかしその実、誰よりも心の奥底で結びついている)月夜公、この二人が弥助と千弥のために誰よりも心を砕く様は、大いに胸に響く名シーンであります。
(にしても、いつもながら千弥と月夜公の間の感情は重すぎる……)

 いや、この二人だけでなく、これまで弥助に関わった者たち、弥助に助けられた者たちが総登場で力を貸す姿は、まさに大団円に相応しいものであるといえるでしょう。
 その果てに何が待つ結末――それは実のところ、予想できなくもなかったのですが――あ、この物語であればこれ以外ない、というもので、一抹の物悲しさを遺しつつも、それ以上に力強い希望を与えてくれるのです。

 これまでどこか歪んだ、擬似的な親子関係にあった千弥と弥助。しかし「子」であった弥助が、妖怪の子預かり屋となることによって「親」となり、大きく成長する姿を、本シリーズは描いてきました。
 その物語のひとまずの締めくくりとして、この結末はいささか皮肉ではあるかもしれませんが、大いに頷けるものであるといえるでしょう。


 さて、ひとまずの締めくくり、と書いたのは、『妖怪の子預かります』は本作までを第一シーズンとし、次作から第二シーズンを開始する意向とのこと。そうであるならば、千弥と弥助の――いや、弥助と千弥の新たな物語に、心より期待したいと思います。

(にしてもラストの申し出は――月夜公、本当に感情が重い男よ)

『妖怪の子預かります 10 千弥の秋、弥助の冬』(廣嶋玲子 創元推理文庫) Amazon


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