« 廣嶋玲子『妖怪の子預かります 10 千弥の秋、弥助の冬』 大団円 そして「子」は成長して―― | トップページ | 山口貴由『衛府の七忍』第9巻 激突、十大忍法vs時淀み 望みを巡る対決 »

2020.06.24

野田サトル『ゴールデンカムイ』第22巻 原点回帰の黄金争奪戦再開

 樺太で再び相棒としての互いの想いを確かめあい、新たな一歩を踏み出した杉元とアシリパ。しかし鶴見中尉がこれを許すはずもなく、北海道への逃避行が始まることになります。そして辿り着いた北海道では路銀のために砂金掘りに挑む杉元一行ですが、そこに迫る影が……

 樺太・ロシアでの冒険を終え、ようやく北海道も目前のところまで来た杉元とアシリパ。しかしアシリパを取り戻すためとはいえ鶴見一派の力を借りたことは、二人のこの先に暗い影を落とします。
 はたして、親切ごかしながらもアシリパを監禁し、利用せんとする鶴見。その意図を感じ取ったアシリパ、そして杉元は、再び相棒として、ただ二人で黄金争奪戦に乗り出すことを誓うのでした。

 もちろん目の前でそんな宣言をされて鶴見が看過するはずもなく、たちまち大泊の町で繰り広げられる一大追跡劇。銃器の使用も辞さない相手に、ついに「不死身の杉元」モードになる杉元に対して、アシリパの選択は……

 と、再開された黄金争奪戦のプロローグとも言うべき戦いが描かれる本書の前半部分。ちょっとした市街戦状態から、連絡船と駆逐艦のチェイスとスケールアップしていくのはまさに本作の面目躍如ともいうべき展開ですが――その中で谷垣や月島といった面々が彼ららしい顔を見せたと思えば、なし崩し的に仲間になった頭巾ちゃんことヴァシリが思わぬ活躍を見せたりと、主人公二人以外のキャラがきっちり存在感をアピールしているのも嬉しいところであります。

 そして何よりも、アシリパを護るためには、戦いから遠ざけるためには狂戦士になることも辞さない杉元と、そんな彼を護るために自分が盾になることも辞さないアシリパと――互いを尊重しつつも、それぞれに覚悟を決める二人の姿が印象に残ります。
 もちろんそれは、一歩間違えれば二人が共に不幸になりかねない道ではあるのですが……


 そんなわけで杉元とアシリパ、そして白石とお馴染みのトリオ(に頭巾ちゃんも加わって……)の珍道中となり、初期のノリに戻った感もある物語。本書の後半に収録されたエピソードもまた、原点回帰感のある内容です。

 路銀を稼ぐため、ウェンカムイ(人を殺した熊)が出没するという雨竜川で砂金採りをすることになった杉元一行。そこで彼らが出会ったのは、一日で50円稼いだという砂金獲りの名人・松田であります。
 崖から落ちかけたところを杉元に救われた恩から、砂金採りのコツを教えてくれる松田。しかし松田は、ウェンカムイに追われていると語り、ことあるごとに怯えた表情を見せるのでした。

 そして松田の周囲で起きる奇怪な出来事の数々。そして杉元たちの前にもウェンカムイが現れ……

 と、ヒグマの脅威と、曰く有りげな(変態っぽい)人物との出会いと――本作のファンには既にお馴染みとなった要素が中心となるこのエピソード。その意味では新味はないのですが、物語が進むにつれて徐々に大きくなっていく違和感と、その果てに明らかになる真実という構成は、定番ながらなかなかに読ませます。
 実はこの真実も似たようなものが以前もあったのですが、しかし全ての真実が明らかになる瞬間のインパクトは、ある意味実に本作らしい絵面と相まって、強烈なものがありました。

 そしてまた、今回描かれた、黄金に目が眩み、アイヌの伝統に敬意を払わぬ(誤って理解した)者の姿は、ある意味杉元たちのネガの姿であると同時に――この先、杉元とアシリパが戦うべき存在を象徴するものなのかもしれません。


 何はともあれ、原点回帰して再び始まった黄金争奪戦。といっても状況は三つ巴、あるいは四つ巴といよいよ混沌とした様相を呈し、残る刺青人皮もあと僅かです。
 その中で杉元とアシリパに逆転の目があるのか――一つだけ言えるのは、これからこの先、いよいよ戦いが激化する、ということのみであります。


『ゴールデンカムイ』第22巻(野田サトル 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon


関連記事
 『ゴールデンカムイ』第1巻 開幕、蝦夷地の黄金争奪戦!
 『ゴールデンカムイ』第2巻 アイヌの人々と強大な敵たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第3巻 新たなる敵と古き妄執
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第4巻 彼らの狂気、彼らの人としての想い
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第5巻 マタギ、アイヌとともに立つ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第6巻 殺人ホテルと宿場町の戦争と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第7巻 不死の怪物とどこかで見たような男たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第8巻 超弩級の変態が導く三派大混戦
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第9巻 チームシャッフルと思わぬ恋バナと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第10巻 白石脱走大作戦と彼女の言葉と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第11巻 蝮と雷が遺したもの
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第12巻 ドキッ! 男だらけの地獄絵図!?
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第13巻 潜入、網走監獄! そして死闘の始まりへ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第14巻 網走監獄地獄変 そして新たに配置し直された役者たち
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第15巻 樺太編突入! ……でも変わらぬノリと味わい
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第16巻 人斬りとハラキリとテロリストと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第17巻 雪原の死闘と吹雪の中の出会いと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第18巻 ウラジオストクに交錯する過去と驚愕の真実!
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第19巻 氷原の出会いと別れ さらば革命の虎
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第20巻 折り返し地点、黄金争奪戦再開寸前?
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第21巻 二人の隔たり、そして二人の新たなる旅立ち

|

« 廣嶋玲子『妖怪の子預かります 10 千弥の秋、弥助の冬』 大団円 そして「子」は成長して―― | トップページ | 山口貴由『衛府の七忍』第9巻 激突、十大忍法vs時淀み 望みを巡る対決 »