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2020.06.30

久正人『ジャバウォッキー』第5-6巻 有翼の蛇と黄燐マッチと白鯨と

 進化した二足歩行の恐竜が人類の歴史の影で暗躍する19世紀末を舞台に、人間の女スパイと恐竜のガンマンが、人間と恐竜の未来のために奮闘する伝奇アクションのラスト3巻、3エピソードを一挙に紹介いたします。

 人間と恐竜の間で世界の平和を守る――「明日を救う」ために活動するイフの城のエージェントとして活躍するリリーとサバタ。
 すっかりコンビとして息の合った二人が第5巻以降で挑むのは、恐竜による人間支配を企む「有翼の蛇教団」――以前もアダムの肋骨を巡る事件で対決した彼らの陰謀を粉砕するため、二人は世界を股にかけた冒険を繰り広げることとなります


 第4巻末から第5巻にかけて収録される「MATCH/POMP」で描かれるのは、「たった一発の狙撃で地球上全ての恐竜を殺す」計画を画策する(マンダムな感じの)怪人サックスマンとの対決であります。
 黄燐マッチ事業に失敗し、財産を失ったのは恐竜のせいと信じ込む狂的な実業家・アングレームを抱き込んだサックスマン。アングレームを捕らえてその荒唐無稽な計画を聞きだしたリリーとサバタですが、計画の背後には、恐ろしい真の狙いがあったのです。

 計画を阻むために敵の本拠に急いだ二人の前に現れるサックスマンを倒したものの、彼は傀儡に過ぎず……

 バーナード彗星、パリ万博、黄燐マッチ――と、この時代ならではのガジェットを散りばめて描かれるこのエピソードは、ある意味これまでで最も規模の大きい陰謀が描かれていると言えるでしょうか。
 それに相応しく敵の正体も――なのですが、無茶苦茶な個性を発揮するアングレームが全てを持っていった印象もあります(さすがにあの身体能力はいかがなものか――というのは野暮でしょうか)。もちろん、ラストはサバタがきっちりと決めてくれるのですが……


 続いて第6巻にかけて展開する「BUCK&DICK」の題材は、あのモビーディック――言うまでもなくあの『白鯨』でエイハブ船長と死闘を繰り広げたモビーディックですが、しかしその正体が、実はリオプレウロドンだった、というのは、まさに本作ならではの仕掛けでしょう。

 沈没船を巡る詐欺の陰にモビーディックの存在があると知り、調査に乗り出すリリーとサバタ。二人とモビーディック専門家のスターバックは乗っていた潜水艦をモビーディックに撃沈され、孤島に漂着することになります。
 そして、捕らえられたリリーとスターバックは、有翼の蛇教団の守銭奴にして狂信者・キンスキが主催する恐竜闇賭博場の賭けのネタにされ、徒手空拳でモビーディックに挑むことに……

 闇賭博場で繰り広げられる恐竜たちの狂気のギャンブル、これまでにない巨獣・モビーディックとの死闘と見所の多いこのエピソードですが、何と言っても印象に残るにはゲストキャラのスターバック。
 このスターバックは『白鯨』に登場した一等航海士ですが、本作で描かれるその姿は何と女性――しかもエイハブ船長を(一方的に)愛していたという設定なのであります。そんな彼女は、モビーディックへの強い思い入れもあって、リリーと事ある毎に対立、それが物語の原動力ともなっていきます。

 もっとも、激しく対立していた二人が最後には強い女の友情で結ばれる――というのは定番ではありますが、格好つけまくっているようでいてどこか抜けているサバタとの対比で描かれるその姿はどこまでも痛快。そしてそれが、スターバックの「解放」に繋がっていくドラマも泣かせます。
 もちろんサバタの方も、キンスキとの最後の賭けを見事に決めて見せるのですが、今回ばかりは二人に大きく譲った感があります。

 そしてもう一つ、個人的に面白かったのは、イフの城の潜水艦の航海長がコンラッドの『闇の奥』のマーロウであったこと。
 『白鯨』もそうですが、他の物語の内容が「現実」の出来事として作中に取り入れられているのは、伝奇ファンとしては何とも嬉しい趣向であります。


 と、エピソード2つの紹介までで随分長くなってしまいました。中途半端で恐縮ですが、残る第6巻から第7巻にかけて収録のラストエピソード「ETERNAL FLAME」は、次回ご紹介いたします。


『ジャバウォッキー』(久正人 泰文堂アース・スターコミックス) 第5巻 Amazon / 第6巻 Amazon

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