「コミック乱ツインズ」2020年7月号(その一)
「コミック乱ツインズ」誌も、号数の上では早くも後半戦の7月号。表紙は『鬼役』、巻頭カラーは『勘定吟味役異聞』ですが――内容の方は、夏の激闘号とでも呼びたくなるような激しい戦いを描いた作品が多く並んでおります。今回も印象に残った作品を一作品ずつご紹介いたしましょう。
『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
ついに余人を交えず決着の時を迎えた入江無手斎と浅山鬼伝斎。破れ寺を舞台に激しく切り結ぶ二人の勝負の行方は……
と、物語的には二人がひたすら戦うのみというシンプルな今回。(無手斎の追想を除けば)登場人物もほとんど完全にこの二人のみという、ある意味異色の回なのですが――これが実に見事なのであります。
巻頭カラーページの、落日を背に無手斎の前に立ちはだかる鬼伝斎という、一種荘厳さすら感じさせる画から一転、凄まじい迫力で襲いかかる鬼伝斎――という強烈な掴みから、時間を遡って当日朝の無手斎の死闘を前にしながらも恬然と日常を送る見事な挙措、そして決闘の場に至っての緊迫感溢れるにらみ合い(ここから冒頭の場面へ)という前半部分の丹念な構成にまず感心させられますが、ここから一気呵成の死闘がまた凄まじい。
その一撃必殺ぶりが伝わってくるような鬼伝斎の豪剣の連続と、一瞬の隙をついての無手斎の反撃、そしてその合間の二人の思想と想念のぶつかり合い――圧巻と言うべきか、息つく暇もないというか、とにかく最強の剣士二人の決着回に相応しい壮絶な剣戟が、ここにはあります。
この原作を漫画化した意味がここにある――とすら言いたくなる、素晴らしい回でした。いや凄いものを見ました。
『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
狐狼狸(コレラ)の流行に対して、無病息災を祈る夜須礼祭に仮装で参加することとなった求善賈堂の面々と土方。歌舞伎役者の衣装を手がける職人に頼んだ装束を受け取りに向かった半次郎たちですが……
冒頭、何故か全裸で眼病の手術を行う半次郎という謎のエピソードから始まった(と思ったら全裸に理屈付けがされていたのに吃驚)今回、どうなることやら――と思いきや、その後は半次郎や土方がちょっと目を疑うような凄い格好で暴れまわるというまさかのコスプレ回であります。
シリアスな事態を前に、半次郎と土方がバラエティ番組なみの被りものをして、真剣な面持ちを見せる――という異次元空間にはもうどんな顔をすればよいのやら。ラストにはもう我々にはすっかりお馴染みのアレも登場して、時事ネタかつ何だかいい話に落とし込んでくるのもスゴいエピソードでした。
『いちげき』(松本次郎&永井義男)
馴染みの女郎・ソノを自由にするために訪れた女郎屋で、宿敵・伊牟田と対峙することとなった丑五郎。もはや自分たちとソノ以外生あるものはいない女郎屋で、二人の最後の対決が始まることに……
と、もはや自分の命(とソノ)以外失うものなどなくなった丑五郎と伊牟田の激突という、本作の最終章に相応しい殺伐極まりないシチュエーションで繰り広げられる今回。しかしこの明日なき決闘の前に、丑五郎が初めて伊牟田に自分たちの名――「いちげきひっさつたい」の名乗りを上げるのに泣かされます。
そしてそれに対して、丑五郎たちの戦いを認め、正面から受けて立つ伊牟田も見事なのですが――そこから始まるマラソンバトルが、格好良さや冷静さとは無縁の、ひたすら泥臭い叩き潰しあいとなるのが、これまた実に本作らしいというほかありません。
もはやなりふりかまわず、女郎屋を破壊しながら繰り広げられる死闘。その行きつく先は――まだまだ見えません。
残りの作品は次回紹介いたします。
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