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2020.06.02

石川優吾『BABEL』第6巻 地獄のひえもんとり そして黙示録の死闘!

 もはや八犬伝とは何か、という問いかけを凌駕する勢いで展開する『BABEL』――その薩摩編もいよいよクライマックスであります。激闘の末に薩摩に捕らえられた小文吾、同じく囚われの身の信乃(あと左母二郎)とともに駆り出された「ひえもんとり」。その恐るべき姿とは……

 奇しき因縁から屋久島に流され、そこで琉球の姫君・按司加那志と出会った犬田小文吾。しかし魔に憑かれた島津貴久の軍勢の前に島は蹂躙され、「悌」の宝珠の力に目覚めた小文吾も、奮戦空しく(フランキ砲の連打を喰らって)力尽き、貴久の内城に捕らえることになります。
 一方、伏姫のお告げにより南に向かった信乃(と左母二郎)は、犬の導きで薩摩に辿り着いたものの、早速虜囚の憂き目に。そして彼らは、小文吾と同じくひえもんとりの贄として引きずり出されることになったのです。

 かくてこの巻で展開するのは薩摩武士の恐るべき風習・ひえもんとり――死罪人の腹から肝を奪い合うという、文字通りの肝試しであります。
 が、本作のひえもんとりは、城下全てを狩り場として、そこに罪人たちを解き放ち、それを騎馬武者たちが追いかけるという完全な人間狩り。追跡を逃れて城下から脱出すれば無罪放免、捕らえられればその場で生き肝を食われるという、司馬遼太郎や平田弘史もびっくりのグレートハンティングです。

 実のところ、魔に憑かれた城主による殺人ゲームという点では佐倉編と重なる部分はあるのですが、しかしあちらが囚人同士の殺し合いであったのに対して、こちらは囚人側が完全に無力――別の意味で無力感と残酷さを感じさせるのが悍ましいところであります。


 しかし、この人間狩りから始まるのは驚異の一大バトル。死闘の最中に再び悌の珠の力に目覚めた小文吾、そしてそれと呼応して孝の珠の力を発揮する信乃――二人は、魔の化身たる島津貴久を倒すため、城下の家々の屋根の上を突っ走って大逆襲に転じるではありませんか。
 それに対して、島津側は種子島の銃弾の雨あられ、いやそれどころか城下の兵や民を巻き添えにしてのフランキ砲の連打連打! さらにキリスト教を騙る邪悪は許せんと大友勢が参陣(こんなに頼もしい大友義鎮(たぶん)は初めて見た!)、そこに桜島まで大噴火と、もう大変な状況です。

 この大混戦を普通の作家が描けば収拾がつかなくなりかねませんが、しかしそれを描くのは作者一流の超画力。地獄絵図――というよりもはや黙示録の世界と化した戦いの姿は、一種荘厳さすら感じさせる凄まじさなのであります。


 しかし、それでも戦いは続きます。ここまでやるか!? と言いたくなるような正体を露わにした貴久の怪物ぶりに対して、善の力も集結。いよいよエスカレートする善悪の決戦の行き着くところは――もはや誰にも予想できないとしか言いようがありません。


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