« 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第17巻 二つの出会いが呼ぶ明るい空気 の後はやはり…… | トップページ | たみ『幕末隠密伝 ブレイガール』第1巻 無礼上等、三人の美女が幕末の悪を斬る! »

2020.06.10

霜島けい『鬼灯ほろほろ 九十九字ふしぎ屋商い中』 怪異譚と人情譚の巧みな融合の一冊

 いわくつきの品物や出来事ばかりが集まる九十九字屋に奉公する霊感少女・るいの奮闘を描くシリーズの好調第6弾であります。前2巻で描かれた冬吾の過去を巡る事件も解決し、この巻では九十九字屋も通常営業――バラエティに富んだあやかし奇譚が描かれることとなります。

 故あって九十九字屋に奉公することになったるいと、無愛想な九十九字屋の主人・冬吾、死んだ拍子に「ぬりかべ」になってしまったるいの父・作蔵、店に出入りする化け猫で美女に化けるナツ――このユニークな面々を中心として描かれてきた本シリーズですが、この巻には全3話が収録されています。

 冒頭の「五月雨長屋」は、とある長屋に現れた幽霊を巡る奇妙な物語であります。
 長屋に一人で暮らしていた弥吉がある晩急死して以来、彼の部屋で起こる怪異。部屋の戸が開かなくなる、弥吉らしい姿が長屋の周囲に現れる、そして部屋にカエルが降ってくる――相次ぐ怪異に音を上げた差配の頼みで、冬吾とるいは長屋に向かうことになります。

 そこで二人が見たのは、弥吉の部屋はおろか、長屋一帯を埋め尽くすカエルの群れ。さらに弥吉の部屋に佇んでいた幽霊の、その顔は……

 長屋に出没する幽霊というのは、怪談話の定番ではありますが、ここでユニークなのは、もちろん幽霊と共に現れるカエルたちの存在。しかも幽霊の姿までもが――と、何とも強烈なビジュアルに驚かされます。
 この辺りの捻り(この現象が生まれたロジックも含めて)は作者ならではと言うべきと感じますが、それ以上に見事なのは、やはり弥吉の幽霊が抱える事情でしょう。それが語られる時、ちょっとユニークで不気味だった怪異譚が、一転切ない人情譚に変わる――本作ならではの一編です。


 一方、表題作の「鬼灯ほろほろ」は、お盆の支度のため、浅草寺の縁日に出かけたるいとナツが出会った、一人の少年にまつわる物語であります。
 混雑の中、るいの財布を掏ってナツに取り押さえられた少年・寛太。幼い頃から片手が開かず、親を亡くしてからは住む家もなく暮らしているという寛太ですが――るいは彼の周囲に、女の亡者の気配を感じるのでした。

 はたして自分には「姉ちゃん」がいると語る寛太。掏摸も彼女の仕業のようですが、しかし亡者を生者のように見ることができるはずのるいの目に、彼女は映らず……

 という見えない守護者テーマの本作ですが、面白いのは、普段はそうした存在が「見える」はずのるいが見ることができないことでしょう。それによって相手の正体のミステリアスさがいや増しているわけですが――その理由と、寛太との結び付きには唸らされます。
 そしてそれが、救う側の存在が同時に救われていた、という人情ものとしての構図を、鬼灯というアイテムをキーに、美しく描いているのが泣かせるのですが――そこで九十九字屋ならではの何ともすっとぼけたオチがつくのも、愉快なところです。


 そしてラストの「辻地蔵」は、大店の一人娘を襲う恐るべき祟り(?)を描く物語。
 近くの辻に立っている地蔵・おしるべ様を倒してしまったという、東雲屋の一人娘・志乃。するとその晩、夢に男が現れ、志乃は「しのわざわい」を受けなければならないと語ったというではありませんか。

 その祟りをもたらしたと思しきおしるべ様を調べに向かったるいは、そこで出会った人物から、おしるべ様が何者であるかを聞かされるのですが……

 子供の他愛もない行動が、思わぬ結果をもたらす様を描いた本作。それ自体は決して珍しい内容ではないかもしれませんが、しかし子供を見守るはずのお地蔵様が子供に祟りを与えるか? という考えてみれば尤もな問いかけから、物語は思わぬ展開を見せることになります。
 そしてその末についに露わになった「しのわざわい」の正体とは――いやはや、何となく怪しいと思ってはいたのですが、こうきたか、と思わずにっこり。それでいて、子供の心としっかり向き合い、正すべき点は正そうと教え諭すおしるべ様(その正体も泣かされます)には、思わず手を合わせたくなってしまうのです。


 以上三話、いずれもスケールは控えめの、日常系の怪談(?)とでも言うべき内容ではありますが――しかしそこに一ひねりも二ひねりも加えて、本作でなければ読めない物語として成立させているのはいつもながらお見事というほかありません。
 怪奇と人情を巧みに融合させた、逸品揃いの一冊であります。


『鬼灯ほろほろ 九十九字ふしぎ屋商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon

関連記事
 霜島けい『ぬり壁のむすめ 九十九字ふしぎ屋商い中』 おかしな父娘の心の絆
 霜島けい『憑きものさがし 九十九字ふしぎ屋商い中』 ユニークな怪異と、普遍的な人情と
 霜島けい『おもいで影法師 九十九字ふしぎ屋 商い中』 これぞ妖怪時代小説の完成形!?
 霜島けい『あやかし行灯 九十九字ふしぎ屋商い中』 一級の怪異と人情と、思わぬ過去の秘密と
 霜島けい『おとろし屏風 九十九字ふしぎ屋商い中』 「恐怖」を、そして此岸と彼岸を超える「情」

|

« 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第17巻 二つの出会いが呼ぶ明るい空気 の後はやはり…… | トップページ | たみ『幕末隠密伝 ブレイガール』第1巻 無礼上等、三人の美女が幕末の悪を斬る! »