皆川亮二『海王ダンテ』第10巻 アトランティス編開幕 ダンテのルーツ、モーセの過去
大乱戦の果てにメジェド様まで大暴れしたエジプト編も完結し、この巻から新章に突入の『海王ダンテ』。新章の舞台はアトランティス――言うまでもなく大西洋に沈んだと言われる伝説の島ですが、本作のそれは、何と天空に浮かぶ超科学の島であります。そこでついに明かされるダンテのルーツとは……
「構成」の書が超古代に作り出したエジプト地下の科学都市・冥界での激闘は決着したものの、その最中に、自分の名の由来が、魔導器を操る力を持つ種族・ドゥランテであると知ったダンテ。そして「構成」は、ダンテのルーツに繋がる場として、アトランティスの存在を告げるのでした。
かくて、やはりアトランティスに向かうというナポリオを追うという名目で、仲間たちともにアトランティスの門が存在するというシナイ山に登ることとなったダンテ。
ナポリオの空中戦艦に同乗してシナイ山上空を行くダンテたちは、突如天空に開いたゲートに飲み込まれ、そしてその先で彼らを待っていたのは、天空に浮かぶアトランティスだったのですが……
というわけで、「海王」といいつつ、地底の次は天空と、こちらの予想を遥かに超える冒険の場を用意してくる本作。しかもこの巻では、ダンテの物語と平行して、もう一人の物語が描かれることとなります。
その名はモーセ――この物語の三千年前、アトランティスに現れ、そしてかの地を滅亡寸前まで追い込んだ男。そして魔導器を自在に操る先代のドゥランテであります。
その強靭――というより異常なまでの能力を持つ肉体は、人間と同じ姿を取りながらも、常人とは明らかに次元の違う存在。何しろ、常人には猛毒などというも愚かな放射性廃棄物を注入して、ようやく動きを止めることができるというレベルなのですから……
そんな彼が何故天空のアトランティスに現れ、そして滅ぼそうとしたのか――徐々に明らかになっていくその物語こそは、ダンテの存在はもちろんのこと、本作の様々な謎に繋がるものとして、大いに興味をそそられるものがあります。
ドゥランテとは何者であり、何を目的としているのか。魔導器や書とはどのような関係なのか。三千年前に何が起き、そして何よりも、ダンテとの関係は何なのか……
その答えの全てがここで明らかになるわけではありませんが、しかしその一部とはいえ、ここで描かれるものは新たな真実の連続であり――これまでの物語の在り方が、全く変わって見えてくると言っても過言ではありません。
正直なところ、そのインパクトの前では、ダンテがこの巻で繰り広げる冒険が――いやそれどころか、ダンテとナポリオの戦い(もはや完全に口が悪いだけでダンテの友達に戻ってるナポリオ)や、不死人コロンバスの野望といった、これまで物語の本筋であったものまでもが色あせてしまうようにすら思えるのです。
しかしもちろん、そうであっても本作の主人公はダンテ――ドゥランテとしての肉体を持ちながらも、心はあくまでも人間、それも友と冒険を愛し、弱きものを慈しむ、本作において最も好ましく、魅力的な人間であります。
この巻の結末で、ある意味最大の衝撃的な秘密が語られたダンテが、この先もそんな人間として生きていくことができるのか。そしてこの強烈な存在感と設定の強さを持つモーセに食われることなく、己を貫くことができるのか……
いよいよ佳境に突入した物語が一体どこに向かうのか――次の巻の内容がそれを決めるのでしょう。それを確かめるのが、今から楽しみでなりません。
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