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2020.06.13

輪渡颯介『祟り神 怪談飯屋古狸』 凶盗と首縊りの木と――魚屋と!?

 怪談を聞かせると無代になる飯屋・古狸。古狸に今日も通う虎太は、かつて盗賊・蝦蟇蛙の吉一味に住人が皆殺しにされた店で行方不明になった若旦那の謎を調べるため、その家に泊まることになる。さらに、神木が切り倒されて以来、奇怪な首縊りが相次ぐ社を調べることになった虎太だが……

 怪談+ミステリ+コメディ(+猫)を描かせれば右に出るものがいない――というより斯界唯一の作者の新シリーズ『怪談飯屋古狸』、待望の第2弾であります。

 行方不明になった怪談マニアの父を探す兄弟が営む飯屋・古狸――父の手掛かりを得るため、怪談を聞かせるか怖い話に出た場所を訪れると無代になるという奇妙なルールがあるこの店に通うのは、主人公で檜物職人修行中の虎太であります。
 無職だった以前とは違い飯代の心配はなくなったものの、店主兄弟の妹で看板娘のお悌目当てにせっせと通い続ける虎太。しかし正義感と腕っ節は強いものの、大の怖がりで強い霊感持ち、おまけに阿呆のおかげで、虎太は大騒動に巻き込まれて――というのが、本シリーズの基本設定であります。

 さて、本作のメインとなるのは、押し入った先の人間は皆殺しにするという凶行を繰り返しながら、未だに捕らえられていない、盗賊・蝦蟇蛙の吉一味にまつわる空き店の怪であります。
 住人が一味に皆殺しにされて以来、住む人もない店で肝試しをするといって行方不明になった若旦那。古狸の常連であり、実は定町廻りの同心・千村の口利き(というか命令)で、虎太はこの店に岡っ引きの権左と泊まり込む羽目になります。

 その晩見た不気味な夢がきっかけで、若旦那の行方はわかったものの、今度は権左が持ち込んだ「首縊りの木」を調べることになった虎太。
 神木の欅が切り倒されて以来、切り倒した男を皮切りに、次々と人々がその隣の松の木で首を吊るという社で、早速恐ろしい体験をしてしまった虎太ですが……


 というわけで、今回も非常に洒落にならない物件に次々と関わることにまってしまう虎太。本人にとってはたまったものではないのですが、彼が次々と恐ろしい体験をして悲鳴を上げる羽目になるのは、こちらにとっては期待通りであります。
 シチュエーション自体は陰惨極まりないものの、関わる人間の妙にすっとぼけた個性のおかげで、怖いけれども後味は悪くない――というのは作者の作品の特徴ですが、本作でもその個性は十分発揮され、怖いのだけれど楽しいという、ちょっと矛盾した気持ちで、最後までひっぱられていってしまうのです。

 特に今回楽しいのは、団子こと千村の存在でしょう。普段は着流し姿で団子ばかり食べているものの、店には隠したその正体は町奉行所の切れ者同心である(ご丁寧にわざわざ店の外でこっそり着替えてくる)千村。
 前作である事件に巻き込まれ、千村に助けられた虎太は、それ以来頭が上がらず、今回のようにこき使われたりもするのですが――本来であれば手下には困らないはずの千村が、わざわざ虎太に声をかけてくる理由というのが、ロジカルなようで本作ならではの無茶苦茶さで実に面白いのです。

 そして散々危ない目に遭わせておいて、「俺が虎太に期待しているのは、こういうのじゃないんだよなあ」といけしゃあしゃあと言ってくるのも愉快なところで、なるほど作者の作品でお馴染みの、主人公を振り回すイイ性格のキャラ枠は、今回はこの人か――とニヤニヤしてしまった次第です。

 また、本シリーズの、いや作者の作品の面白さといえばミステリ的な仕掛けの部分ですが――あまり踏み込んでは書きませんが、冒頭で語られる夜毎出現する女幽霊のエピソードも含め、バラバラのピースがピタリピタリとはまり合って、一つの怪奇な因縁の姿が浮かび上がっていくのは、もちろん本作でも健在であります。


 そしてもう一つ――本作のゲストキャラについても触れておくべきでしょう。探索の途中、あるきっかけで虎太が知り合ったのは、鬼のように怖い面と巨体で、しかし猫大好きの通りすがりの魚屋。
 そう、作者のファンであればよくご存知のあの男が、本作で思わぬ――そして非常に「らしい」――形で登場してくれるのです。

 一歩間違えれば虎太とかぶるキャラだけにちょっと心配しましたが、十分節度ある登場で一安心。クロスオーバー好きとしては、何とも嬉しいファンサービスであります。


『祟り神 怪談飯屋古狸』(輪渡颯介 講談社) Amazon

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