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2020.06.17

さいとうちほ『輝夜伝』第5巻 月詠の婚儀と血の十五夜の真実

 天女の謎、そして自らにまつわる謎を求めて奮闘する月詠の冒険も、はや第5巻に到達しました。思わぬ展開から子供の身となってしまったかぐや姫の替え玉として婚礼することになった月詠。数々の危難の末、ついに彼女が知った驚くべき真実とは……

 天女であるかぐや姫を巡り、姫を深く愛する帝と、かぐや姫に執着する治天の君の間の争いに巻き込まれる形となった月詠。
 その最中に、治天の君の真の狙いが、天女が人を愛した時に遺す不老不死の霊薬であることが明らかになるのですが――かつて治天の君が天女から得た霊薬の残りをかぐや姫が奪い、舐めてみたところ、子供の姿に戻ってしまうという一大アクシデントが発生してしまうのでした。

 この緊急事態に、かぐや姫の替え玉となった月詠ですが――しかしこれまで彼女が女性であることは北面の同僚の大神しか知らなかったものが、凄王までもがその秘密を知ってしまい、いきなり彼に言い寄られる羽目に。
 さらに悪い時には悪いことが重なるというべきか、新たな霊薬を得んとする治天の君のゴリ押しで、帝と「かぐや姫」の婚儀が行われることになってしまい……


 と、色々な意味で月詠の身が危機に瀕するこの巻。言うまでもなく本作は、かぐや姫の伝説を新解釈する物語でありますが、そのスタイルは、いうなれば「男社会に男装して潜り込んだヒロインもの」(という表現でよいのかしら)といえるでしょう。
 とすれば、自分の正体が他の男にバレてしまう展開というのはある意味定番ではありますが、それをここでこういう形で、物語の展開や舞台背景と自然に結びつけて描いてみせるか、と感心させられました。

 感心といえば、平安時代の貴族の婚礼のややこしさ――三日連続で男が女性のもとに通い、三日目で三日夜餅を食べ、露顕の儀を行う――を、月詠が段階的にクリアしなければならない難関として描くと同時に、帝とかぐや姫の結びつきの強さを示す展開にも唸らされた次第です。


 と、そんな恋愛もの(?)展開が繰り広げられる一方で、独自の動きを見せるのが仮面の西面の武士・梟であります。
 治天の君の腹心でありながら、これまでも主のそれとは別の意図を持つことを匂わせ、そして明らかに月詠のことを過剰に気遣っている梟。その正体はどう考えても――なのですが、この巻において、ついにその正体が明かされることになります。

 さらに彼の口から語られる、月詠のルーツと、血の十五夜事件の真相。特に後者は、この物語の冒頭から、全編を貫く謎として存在してきたものであり、そもそも月詠が男装して都に現れた理由でもあります。
 そしてその真相は、なるほど、梟の正体も含めてこういうことであったか、と感心させられたのですが……


 しかしそれでもなお残るいくつかの謎。そしてその謎こそが、月詠のこの先の運命に繋がるものであることは間違いありません。

 この物語においては――いや、そのベースにある竹取物語においても――その「故郷」の人々(?)からは無視されているように感じられれる天女自身の意志。しかし本作における二人の天女、すなわちかぐや姫と月詠には、明確に彼女たち自身の意志があります。
 その意志を失うことなく、最後まで貫くことができるのか――おそらくはこの先は、そのための戦いの物語となるのではないでしょうか。

 だとすれば、彼女たちが挑むべき相手は、やはりその意志を無視して、己の目的のために利用せんとする者なのだと思いますが――さて、意外な人物にその魔手が伸ばされるという、気になる引きで終わったこの第5巻。
 天女たちだけでなく、その周囲の男たちのドラマも気になるところであります。


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