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2020.06.18

東郷隆『邪馬台戦記 Ⅲ 戦火の海』 決戦、幾多の人々の生が交錯した果てに

 東郷隆による古代史活劇『邪馬台戦記』三部作の完結編であります。ナカツクニ(邪馬台国)打倒の野望に燃えるクナ国王クコチヒコの大船団による総攻撃が迫る中、ワカヒコはこれを阻むことができるのか。タイトル通り戦火は海に拡大し、壮絶な決戦が繰り広げられることになります。

 貿易のため東に進出したナカツクニの船団に海霧の中から襲いかかり、次々と船を沈めるという謎の巨人の噂。その調査を命じられた勇者ススヒコ(第1巻の主人公)の子・ワカヒコは、謎の巨船に襲われた末、水先案内人の少女・サナメとともに辛くも生き延びるのでした。
 その巨船こそは、かつて九州を追われたクナ国の新王・ヒミココことクコチヒコが建造を進めていた秘密兵器。遙かローマ(!)からの渡来人「きうす」の技術により巨大な投石機を装備したその巨船により、彼はナカツクニ打倒を目指していたのであります。

 その巨船建造のために神木を狙い、クシロ村を襲撃したクナ国の兵を、ワカヒコとサナメは、それぞれその軍略と弓術を活かして見事に撃退したのですが――しかしこれは局地戦に過ぎません。
 クナ国の野望を知り、更なる攻撃に備えて守りを固める二人。しかしその間にもクコチヒコはその力を蓄え、投石機を装備した二隻目の巨船が動き出したのであります。

 奇しくもその船に乗っていたのは、ワカヒコとともにナカツクニを旅立ちながら、途中ではぐれた末にクナ国に拾われた渡来人・彭。彭はそこで「きうす」――ローマの解放奴隷ルキウス・ルグドネンシスと出会い、彼の数奇な運命を知ることになります。
 一方、ワカヒコらの奮闘と、クナ国の動きを知った卑弥呼と弟のオトウトカシは、クナ国に苦しめられる諸国を糾合し、決戦を決意。しかし、当時の日本ではオーバーテクノロジーである投石機を擁するクナ国との彼我の戦力差はあまりに大きく……


 と、これまでの2作が、ナカツクニとクナ国の争いを背景にしつつも、比較的主人公たち個人の冒険物語の色彩が強かったのに対して、いよいよ二つの国の本格的な戦さが描かれることとなる本作。
 クライマックスはもちろん両国の水軍による決戦が描かれることになりますが、そこに至るまでも、ワカヒコを中心に集結した各地の人々とクナ国軍の戦いが描かれ、全編にわたり戦闘の連続という印象があります。

 しかしそんな中でも、ワカヒコが存在感を失わないのが本作の巧みなところで、彼自身は一人の少年に過ぎないものの、大人も及ばないような軍略と知識を発揮。そして直接の戦闘は、彼のパートナーである体育会系ヒロインのサナメが担うという形で、それぞれの長所を活かした痛快な活躍が描かれることになります。
 それでいて、年相応にサナメの姿にドキドキしてしまうワカヒコや、あっけらかんと彼に迫るサナメなど、ちょっとドキドキする要素が織り込まれているのもまた良いのであります。

 そしてそれだけでなく、本作ではさらに大人たちの――それも敵味方それぞれの、様々な立場の人々の――視点も織り込まれることで、物語に一定の深みを与えているのもまた見事といえるでしょう。
 卑弥呼とオトウトカシ、クコチヒコと配下の将、きうすと彭、さらには彼らの戦いに巻き込まれる周囲の人々も含めて、それぞれの物語が、それぞれの人生が――完全な善も完全な悪もなく――描かれ、交錯することにより、そこには単なる敵と味方の戦いという図式を超えた、人間ドラマが浮かび上がるのです。


 そしてそれらの背景として機能するのが、この時代の日本――大陸や南方など、各地から文字通り流れ着いた人々により、人種と文化の坩堝のような姿の日本の姿であります。

 恥ずかしながら、ここで描かれているものにどれだけの裏付けがあるかは、私には判断できません(しかしこの作者であればしっかりと根拠があって描いているのだろうと信じてしまうのですが)。
 しかし登場する人々や事物の名称、登場する兵器や乗物、果ては言葉遣いや様々な風習に至るまで、その緻密なディテールにはただ圧倒されるばかり。それは極端な言い方をしてしまえば、現代の我々からみればファンタジー世界とあまり変わらないような――しかし間違いなく地続きの――世界に、強いリアリティを与えているのであります。


 物語運びの面白さとキャラクター描写の妙、そして綿密な考証に裏付けされた世界設定――いずれも作者ならではというべき本作。結末の、高揚感と寂寥感が入り交じったどこか不思議な味わいも、強く印象に残ります。
 古代も作者が描けばこうなる――そう評すべき佳品であります。


『邪馬台戦記 Ⅲ 戦火の海』(東郷隆 静山社) Amazon

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