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2020.07.31

『啄木鳥探偵處』 第一首「こころよい仕事」

 親友の金田一京助と浅草をひやかしていた中、待合から飛び出してきた男・小栗とぶつかったことをきっかけに、部屋で殺されていた男・星野を発見した石川啄木。逮捕された小栗の元から凶器と血塗れの告発状が発見されたと知る啄木は、それが偽物と見抜き、警察と森林太郎の前で真実を語るが……

 本放送終了後に取り上げ始めるのも恐縮ですが、ソフトは今月から発売、漫画版も始まったばかりということでしれっと取り上げますアニメ版『啄木鳥探偵處』。
 アニメ版というのはほかでもない、本作の原作は実に約20年前に発表された伊井圭のミステリだからですが――それが今何故、というのはやはり文豪ものの流行(?)によるものでしょうか。何はともあれ、有名人探偵ものがこうしてアニメ化されるのは嬉しいお話であります。

 さて、この第1話冒頭で描かれるのは、本編から十数年後の金田一京助の姿。既に故人である同郷の親友・石川啄木と青春時代を過ごした下宿・蓋平館を訪れた京助は、そこであるものを目にして過去を思い出し――というスタイルで本編が始まることとなります。

 金が入れば酒と女に使い果たしてしまう啄木に京助が振り回されていた頃――ひやかしに出かけた浅草の歓楽街で、待合から出てきた男と突き当たったことがきっかけで、そこで男が殺されていたのを発見した啄木と京助。
 その場に残された痕跡から、現場から何かの手紙が奪い去られたことを推理する啄木ですが――はたして犠牲者の星野は、犯人と目される突き当たった男・小栗が大番頭を務める荒川銅山の告発状を残しており、それが小栗の元から発見されたというではありませんか。

 しかしそれに疑念を抱いた啄木は、知人であった森林太郎を引っ張り出して警察とともに小栗邸に入り込み、本物の告発状が既に小栗によって焼かれていたことを解き明かしたことで、捜査は振り出しに戻ることに……


 というのが今回のあらまし。実はこの星野殺し自体は今回解決せず、啄木が小栗が犯人ではないことを証明するのみですが、ずいぶん粗い推理(というか捜査)だなあと思っていたら、きっちりトリックがあったのは、冷静に考えれば定番ではありますが、ちょっと愉快ではあります。

 そしてこの体験が一つの引き金となって、この回のラストで啄木が「啄木鳥探偵處」を設立することになるのですが――そしてそれが冒頭の十数年後に繋がる――その経緯がちょっと「らしい」のが面白い。
 遊蕩の末に家賃を溜め、ついに下宿を追い出されることになった啄木。そんな彼に対して、京助は自分の蔵書を全て売り払って金を啄木に渡し――と、いかにも啄木らしいヒューマンダストっぷりですが、さすがに気が咎めたのか、「歌人と探偵は似ている」などと探偵處を設立するに至るのであります。

 つまりはこの第1話は探偵處誕生編といったところで、推理物としてみるとさまで面白くはないのですが――何よりも殺人事件そのものは解決していないのが残念――二人の関係性を描くという上では、まず納得でありますし、本作においてはそれは何よりも重要な点であるというのは十分理解できます。
 個人的には、二人で駿河台の坂を歩きながら、当時の御茶ノ水駅を見て「ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」は、自分ではなく自分と京助の友情が詠んだのだ――と言われて京助が感激して啄木に飯を奢るくだりが、風景の美しさと彼のチョロさが相俟って印象に残っているところですが……

 ちなみにこのアニメ版が原作と大きく異なる点は、二人以外の文豪たちが幾人も登場することですが、早くもこの回では、二人の行きつけのミルクホールの常連として野村胡堂たちが登場(が、誰が誰かわからず、エンドクレジットで声優と照らし合わせないとわからないのですが、それはそれで声優を知らないので詰まるという……)。
 また、上に述べたとおり、ゲストとして森林太郎が登場するのですが、これはそこまで必然性があるわけではなく、ちょっと苦しいというのが正直な印象でありました。


 と、あまりすっきりしない感想となってしまい恐縮ですが、個人的には原作の大胆なアレンジは大歓迎。どこまであの原作を盛ることができるのか――すなわち、どこまで
文豪たちを盛ることができるのか、そしてその中で啄木と京助の存在感を失わずに描けるか、楽しみにしたいところであります。


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