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2020.07.13

横田順彌『幻綺行 完全版』(その一) 帰ってきた自転車世界一周無銭旅行の豪傑!

 昨年逝去した横田順彌の第三の明治SFシリーズが帰ってきました。明治時代、自転車による世界一周無銭旅行を敢行した実在の人物・中村春吉。その春吉が、世界各地の秘境で謎と怪物に挑む短編連作シリーズが、単行本未収録の二編を加えてここに復活したのであります。

 押川春浪を中心に、明治時代のバンカラ人脈の人々が活躍する明治SFを数多く発表してきた作者。その作品の大半が日本を舞台とした作品であったのに対して、このシリーズは、その主人公の活動に合わせ世界各地を舞台としていることに大きな特徴があります。
 収録された6話はいずれも「SFアドベンチャー」誌に掲載されたものですが、単行本では4話のみの収録であったものを全話収録し、「完全版」と銘打ったのがこの文庫版であります。

 その装幀たるや、「新刊なのに古書」としかいいようのない凝りに凝ったもので、判っていても一瞬ギョッとさせられるほどの見事なものなのですが――現代に甦った明治の冒険譚に、これほど相応しいものはないといえるでしょう。

 さて、前置きはこれくらいにして、収録各話を一話ずつ紹介させていただきます。


「聖樹怪」
 探検に訪れたスマトラ島の町で、廓から飛び降りようとしていた日本人娼婦・雨宮志保を成り行きから助けた春吉。そのために人から預かった金を使ってしまった彼は、現地で働く青年・石峰省悟から、ボルネオの密林に眠るという山田長政の秘宝探しを持ちかけられるのでした。
 かくてボルネオ島に向かった春吉・志保・石峰は、現地の人々が恐れる密林に分け入っていくのですが……

 記念すべき第一話である本作では、シリーズのレギュラー三人の登場からその人物のキ紹介、初めての冒険が手際よく盛り込まれた物語であります。
 一身是胆の豪傑でありながらどこか抜けたところのある春吉、日本から拐かされて辛酸を嘗めながら勇気と知恵なら負けない志保、謹厳実直そうでいてお家再興のために宝探しに燃える石峰青年――全く異なる境遇ながら冒険心は共通する三人が挑むのは、冒険ものの王道というべき密林の奥地です。

 そこで彼らを待ち受けるものは――詳細は伏せますが、数十年前の少年誌の秘境探検もののグラビアなどで、読者を震え上がらせたあの怪物というのが嬉しい。
 もっとも、一般誌らしく(?)その力はより嫌らしいものとなっていますが、それを乗り越える志保の機転が、ある意味彼女の設定に即したものとなっているのも、何とも凄まじく感じられます。

 それにしてもその志保を、花和尚魯智深ばりの活躍で救出した春吉ですが――さすがにこの結末は悪党の方にちょっと同情してしまいます。


「奇窟魔」
 石峰青年と別れ、ビルマからカルカッタ、そしてネパール、チベットに向かった春吉と志保。そこで山中のラマ寺院が、近隣の娘たちを理不尽に召し上げていることを知った二人は、志保を身代わりに立てて、寺院に乗り込むことになります。
 そこで謎の地下通路に入り込んだ春吉の前に現れた奇怪な怪物たちの正体とは……

 毎回バラエティに富んだ舞台設定は本シリーズの特色ですが、今回は密林から一転、チベットの山中へ。しかしこの当時のチベットは鎖国状態、作中でも言及のある河口慧海が幾多の苦難を乗り越えて乗り込んだ、歴とした秘境といえるでしょう。
 さてそこで繰り広げられるのは――これまた色々な意味で何とも凄まじい悪事を働く一党との対決。まさに因果応報とも言うべき結末は痛快ですが、しかしさすがに春吉たちは楽観的過ぎるようにも感じます。

 ちなみに本シリーズの雑誌掲載時・単行本時のバロン吉元の見事な挿絵は、嬉しいことに本書にも収録されているのですが、本作の前半、インドの平原を一人行く春吉が狼に襲われるくだりの挿絵が、特に素晴らしい迫力で印象に残ります。

 それにしても、「いまこそ、真の蛮勇をふるう時ですわ」はもの凄いキラーフレーズ……


 残る4話は次回ご紹介いたします。


『幻綺行 完全版』(横田順彌 竹書房文庫) Amazon

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