伊藤正臣『恋とマコトと浅葱色』第3巻 彼女と左之助の恋路の結末に待つもの
スマホ越しに幕末を覗き込むことになった女子中学生改め高校生・マコトと新選組の原田左之助の恋を描く奇想天外な物語もこの第3巻でついに完結。池田屋事件に立ち会うこととなったマコトは左之助を救えるのか、そして二人は絶対的な時間の壁を超えることができるのか――驚きの結末が待っています。
修学旅行で訪れた八木邸でスマホに雷が落ちたことがきっかけで、時を隔てた幕末で同時に(?)脇差に雷が落ちた原田左之助と、スマホと脇差越しに出会うこととなったマコト。
芹沢鴨の粛正を目撃した後、一度は東京に帰ったマコトは、翌年の6月に再び京都を訪れ、左之助と再会するのですが――彼は池田屋に突入。そこで短筒を持つ相手に追い詰められた左之助を、新米隊士の大木とともに助けようと奮闘するマコトですが……
と、しっかり参加していたにもかかわらず、フィクションの世界では取り上げられることの少ない左之助の池田屋事件の顛末を通じて、これまで以上に絆を深めたマコトと左之助。しかし二人の間には、時間に留まらず、空間の壁が変わらず立ち塞がります。
つまり、スマホと脇差が通じ合うのは、空間的に近い――簡単に言えば同じ京都にいる間のみ。あくまでも東京の中学生であるマコトは、旅行が終われば京都を離れなければならないわけですが――ここでそう来るか! の力業でクリアしてみせたのにはむしろ感服いたしました。
かくて始まる高校編、早速山口県出身の長門さんという、旧前川邸の住人である新選組マニアのおじさん・田部さん並みに面白い(というよりライバル)キャラが愉快な活躍を見せるのですが、しかしマコトにはそれどころでない悩みが重くのしかかることになります。
それは左之助の結婚――史実では池田屋事件の翌年春、新選組屯所が西本願寺に移った後に「菅原まさ」なる女性と結婚している左之助。だとすれば、今まさに左之助はまさと結婚直前のはずなのです。
これまで、恋する左之助の身に危険が迫ることはあっても、厳しい言い方をすれば傍観者であるマコトにはダメージはありませんでした。しかしまさに傍観者であるがゆえに、いま(精神的に)深刻なダメージを負おうとしているマコト。
果たして物語始まって以来の危機をどう乗り越えるのか――といっても敵は史実というあまりに強大な相手。その証拠に彼女の手元のスマホには、左之助はまさと結婚したというネットの画面が冷たく表示されているのですから……
と、ここから先の展開については詳しくは書けないのですが――正直に申し上げれば、これはさすがに豪快に過ぎるのではないか、という印象であります。こちらの一番見たかった部分を(冒頭に繋がる部分まで含めて)一気に突き抜けていったのには、さすがに驚かされました。
この辺りは――特にどの時点で物語が終わるのかについては――対象とする読者層を考えると、この結末はやむなしなのかな、という気がしないでもありませんが、やはり少々寂しい気持ちになるのは否めません。
ただ――それはそれとして、左之助の純情さ、一途さ、男っぷりの良さは、これはこれまでフィクションで描かれてきた左之助の中でも相当上位に入ることは間違いないのではないかと思います。
だからこそ、この物語の中で、左之助の生の全てを見届けたかった、という気持ちはあるのですが……
『恋とマコトと浅葱色』第3巻(伊藤正臣 LINEコミックス) Amazon
関連記事
伊藤正臣『恋とマコトと浅葱色』第1巻 前代未聞!? 原田左之助と女子中学生、スマホ越しの純愛
伊藤正臣『恋とマコトと浅葱色』第2巻 恋心と葛藤と 現代人が見た池田屋事件の真実!?
| 固定リンク