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2020.07.27

黒狐尾花『姫陰陽師、安倍晴明 平安あやかし草子』 女晴明、大内裏に潜む怪異と謎に挑む

 人と狐の間の「娘」として生まれた晴明は、久しぶりに戻ってきた都で、鬼や天狗の跳梁など怪異が頻発していることを知る。さらに師・賀茂忠行が原因不明の体調不良を起こしたことから、男装してその原因があると思しき大内裏に潜入、調査を開始する晴明。しかし怪異は更に続き……

 平安ファンタジーの大スターである安倍晴明。その謎めいたキャラクターは、今に至るまで様々なバリエーションを生み出していますが、そんな新たな晴明の一人が本作の晴明であります。

 それは本作のタイトルにあるとおり、女晴明――人と信太狐の間に生まれ(と明言される晴明は実は比較的珍しいのですがそれはさておき)、法師陰陽師として市井で気儘に暮らしてきたという変わり種であります。
 もっとも(作中で晴明自身が語っているように)女性の身で陰陽寮に出仕するのはさすがに無理がありますが――しかし本作においては、晴明はその無理を余儀なくされることになります。

 というのも、大内裏で頻発する怪異に密かに対処してきた師・忠行が陰の気にやられ、久々に訪れた晴明の目の前で人事不省に陥るという椿事が発生したのであります。
 しかし忠行の子であり兄弟子である保憲は陰陽頭として激務に追われている以上、事態を解決できるのは自分のみ――と、晴明は保憲の手引きで大内裏に入り込むことになったのです。

 そこで晴明を待っていたのは、奇妙な幼児の霊に人に憑く鬼、後宮で囁かれる呪詛の噂、さらには冥府の獄卒の出没――と、いくつもの謎と怪異。その数々に晴明は挑むのですが……


 というわけで、決して本作が嚆矢というわけではない――というより作者のデビュー作である『平安鬼姫草子』に登場する晴明自身がそうなのですが――ものの、やはりユニークな晴明が活躍する本作。
 まず印象に残るのは、その晴明のモテっぷりというべきか、彼女を取り巻く男性キャラの豊富さでしょう。

 老練な陰陽師にして軽妙な忠行、冷静な優等生タイプの保憲、忠実な従僕の妖狐・雨暗、見鬼の力を持つ武人枠・源満季(実在の人物ですが、フィクションに登場するのはかなり珍しい)、そしてオレ様な天才少年の蘆屋道満……
 これだけ様々なタイプに囲まれ、アプローチされる晴明ですが、本人はいたって飄々として彼らをいなしている姿がまた、ある意味「晴明らしい」と見えるのも、なかなか面白い感覚であります。

 しかし本作はそうしたある意味ライトな趣向の一方で、かなり入り組んだミステリ味が強い物語が展開する物語でもあります。
 原因はおろか、範囲や内容すらもわからない怪異の連続。はたしてその正体は何なのか? ――物語の終盤まで、次から次へと発生する怪異の数々に対して、晴明は一歩一歩、怪異の真相に近づいていくことになります。

 その原因というのが実は決して単一ではなく、そしてそれがまたミスリードに繋がっていくのがまず面白いのですが――何よりも、単なる「力」だけでは祓えない怪異を解決するためにその根本を解き明かすというのは、ミステリ的であると同時に、陰陽師の手法として大いに頷けるものがあります。
(「あの歌」を知っていれば謎のかなりの部分が解けてしまうきらいはありますが……)

 ただ、その真相が真相だけに、本作ならではの晴明が女性という要素ともう少し絡め方があったのではないか、という印象も逆に生じるのも、正直なところではあります。
 もちろんそれはそれで、作中の男たちと同様に晴明を形にはめた見方になるかもしれませんが……


『姫陰陽師、安倍晴明 平安あやかし草子』(黒狐尾花 KADOKAWAメディアワークス文庫) Amazon

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