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2020.07.06

白鷺あおい『シトロン坂を登ったら 大正浪漫 横濱魔女学校』 魔女の卵にして○○たちの冒険

 『大正浪漫 横濱魔女学校』という副題がそのまま示すとおり、大正時代に、横浜の魔女養成学校を舞台とした一風変わったファンタジー――と思いきや、実は○○ものでもあるという、実にユニークな作品の開幕編であります。横浜に出没する巨大な化け豹の正体を追う、三人の女学生の活躍や如何に!?

 大正の横浜にある横濱女子仏語塾。一見普通の女学校であるこの学校は、実は魔女が創立し、魔女を育成する魔女学校――フランス語の授業はもちろんですが、薬草学や占い、そして何よりダンスという名の箒による飛行術の授業まである、立派な学校なのです。
 その横濱仏語塾に通う丸顔に鼈甲縁の眼鏡の少女・花見堂小春が本作の主人公。故あってダンスはちょっと苦手ですが、夢二風の美女の藤村宮子、見かけは十歳そこそこの樹神透子といった親友たちと、元気に勉学に励む毎日であります。

 さて、本作の物語の始まりは、小春の年上の甥で新聞記者の周太郎が持ち込んできた怪事件の噂。何と横浜のあちこちで、人の言葉を喋る豹が目撃され、中には襲われた者までいるというのであります。
 周太郎の頼みで化け豹のことを調べることとなった小春たちですが、なかなか手がかりは見つからない中、彼女たちはとある富豪が屋敷に作った西洋絵画の展示室を見学に行くことになります。そこで見事な熱帯の密林を描いた絵を見学した小春たちですが、実はこの絵には、描かれた獣たちが動くという噂が……


 というわけで、横浜に出没する化け豹と曰くつきの絵画、この二つを軸に展開していくことになる本作。なるほど、これは小春たち魔女の卵が、その術を使ってこれらの事件解決に挑むお話なのだな――というこちらの予想は、半分当たり、半分外れることになります。
 何故なら――(以下、内容の詳細に触れることになりますのでお気をつけ下さい)


 何故なら、小春たち三人をはじめ、この横濱仏語塾に通う生徒の多くは「妖魅」――簡単にいえば妖怪変化の類。小春は抜け首、透子は幽谷響、宮子は――と、それぞれが特異な能力を持つ妖魅の眷属なのです。
 なるほど、いくら開明な土地柄であり、文明開化からも相当時が経っているとはいえ、さすがに魔女学校に子を通わせる親は少ないのでは――と最初に思いましたが、こうした出自であれば、ある意味納得であります。

 何はともあれ、こうした設定を背景とする本作は魔女もの(?)にして妖怪もの――というより、彼女たちの活躍は魔女として以上に妖魅としての力を発揮しての場合が多いため、実際には変格の妖怪ものという印象が強くあります。
(そしてまた、このジャンルでも賑やかなヒロインたちが中心というのはかなり珍しく、それだけでも十分に個性的と言えるでしょう)

 さらに物語は終盤、化け豹の正体を巡る物語から一転、まさかの××××ものとなるのですが――これはさすがに伏せておきましょう。ウィリアム・ハドソンのある作品を背景とするこの展開は、意外でありつつも、「魔女」という点で、小春たちの物語と重なる部分があるのも、また興味深いところであります。


 と、予想だにしなかった要素や展開が盛り込まれた、実にユニークな物語である本作。
 正直なところ、それらの要素が有機的に活かし合っているとは言い難い印象もあり(特に魔女学校ものと上記の××××ものの組み合わせなど……)、また物語的にも大きく次の巻以降に引いているのもちょっと気になるところではありますが――しかしそれでもなお、本作ならではの魅力があるのは間違いありません。

 予告では三部作とのことですが――それであれば残り二作でどのような物語が描かれることになるのか。本作のラストでまた意外な展開があっただけに、ますます先が読めない物語になることを期待したいと思います。


『シトロン坂を登ったら 大正浪漫 横濱魔女学校』(白鷺あおい 創元推理文庫) Amazon

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