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2020.07.14

横田順彌『幻綺行 完全版』(その二) 世界を股にかけた秘境また秘境の冒険

 世界一周無銭旅行を成し遂げた実在の痛快男児・中村春吉を主人公とした秘境冒険SF『幻綺行』の紹介の後編であります。今回は残る4話について、紹介いたしましょう。

「流砂鬼」
 ペルシャの砂漠を自転車で横断途中、思わぬことから食料を失ってしまった春吉・志保・石峰。窮地を奇特な富豪・マファッド氏に助けられた春吉たちは、彼が悪魔の砂漠に宝探しに出かけた息子を探していると知り、手助けを申し出るのでした。
 しかし途中、マファッド氏は大砂嵐に吹き飛ばされ、春吉たちも流砂に飲み込まれることに。流砂によって巨大な地底の洞窟に運ばれた彼らを待つものは!?

 密林、岩山と来て今回は砂漠! 次々と大自然の脅威に晒される春吉たちですが、しかしその果てに現れたのは、超自然、いや超科学的とも言うべき存在。その強敵を相手に、シリーズでも屈指の死闘を繰り広げる春吉ですが、決め手が何とも――なのもまた、豪傑の春吉らしいというべきでしょうか。

 そして本作の結末は、作者の明治SFによっくあるパターンなのですが――途中で描かれたガジェットが我々の世代には何とも懐かしいものを連想させるだけに、一層の不条理感を感じさせるのが面白いところです。


「麗悲妖」
 欧州に向かい、ロンドンに入った春吉。しかしそこで春吉と志保は、新婚の旧友・松尾を訪ねて一人ペテルブルグに向かった石峰から至急の呼び出しを受けることになります。
 仲睦まじい様子ながら、最近妻のエヴグーニヤに不審の目を向けているという松尾氏。彼はある晩、風呂場で血の海に浮かぶ女性のバラバラ死体を目撃したというのですが……

 作中では最も秘境要素の薄い本作。内容的にも、舞台が舞台だけに冒険よりも謎解き色が色濃いものとなります(それでもラストは大乱闘になるのが春吉らしい)。
 その謎自体はなかなか豪快で奇想天外なのですが――作者の他の明治SFを連想させるものがあるのがちょっと気にかかるところです。もっとも、結末の物悲しさと微かな温もり(そしてそこで志保が果たす役割)は何とも味わい深いのですが……


「求魂神」
 ケープタウンに向かう船から、思わぬ成り行きで途中のマデイラ島に降ろされてしまった春吉一行。次の便までの時間に、島の火山に登る春吉たちですが、そこでは上空に奇怪な球体が目撃され、英国の探検家夫婦が行方不明になっていたのでした。
 山中をさまよう中、不思議な空間に飲み込まれた春吉と志保。そこで二人を待ち受けていた恐るべき秘密とは……

 ここから以前刊行された単行本未収録の作品ですが、本作では神を名乗るモノが春吉の前に登場。その「神」は、遠く日露戦争の戦場であるものを集めていたというのですが――と、何と本作は○○○○テーマというべき作品であります。

 しかし真に驚くべきは、本作が、作者の明治SFシリーズのある作品の裏面に位置すると(も感じられる)内容であることです。
 といっても、屈指の恐怖エピソードだったあちらに対して、こちらはまた随分と――という印象。そして志保の過去が、また思わぬ形で皆を救うことになるのも印象的です。
(しかし本作が本当にあの作品の裏面であれば、結局脅威は去っていなかったことに……)


「古沼秘」
 ついにアフリカ入りを果たした春吉一行。ザンジバルに向けて密林を行く途中、黒い砂の沼近くにテントを張った春吉ですが、そこは現地人たちが悪い神が居ると恐れる場所でありました。はたしてその晩、沼から巨大な影が現れ……

 掉尾を飾る本作では、秘境の本場・アフリカ大陸についに到達。途中の春吉の史実に基づく冒険は楽しいのですが、肝心の謎と怪奇の方はいささか薄味という印象です。
 しかし春吉たちの前に立ちはだかるのは、これまででも屈指の強敵、はたして打つ手はあるのかと思いきや――もはや完全にチームの知恵袋担当の志保が見事な閃きで勝利に貢献。いやこれは現代人でもなかなか気付かないのではないでしょうか。


 以上、いささか駆け足になってしまいましたが、単行本収録済みの4話に加えて2話を収録し、さらに単行本や雑誌掲載時のバロン吉元の挿絵も収めた、まさに「完全版」に相応しい本書で、久々に春吉の豪快な活躍を存分に楽しむことができました。
 本シリーズには長編の『大聖神』がありますが、こちらも是非復刊していただきたいものです。もちろん、本書のような装丁で!


『幻綺行 完全版』(横田順彌 竹書房文庫) Amazon

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