« 出口真人『前田慶次かぶき旅』第4巻 開幕直前 いくさ人・武芸者オールスター戦! | トップページ | 『大江戸もののけ物語』 第二話「狙われたおよう」 »

2020.07.24

田中ほさな『川島芳子は男になりたい』第2巻 芳子、もう一人の自分を護衛する!?

 あの「東洋のマタ・ハリ」こと男装の麗人・川島芳子が、本当に男に変身――いや変生男子してしまうという、何とも奇想天外な歴史アクション漫画の第2巻であります。首尾良く溥儀脱出ミッションを成功させたことで軍に認められた彼女の次なる任務は、財閥の令嬢警護……?

 国家の大業を担うような冒険をするために「男になりたい」という夢のため、どんな夢でも叶うという上海を訪れた芳子。
 その顔役、EV・サスーンの下で男になる施術を受けた彼女ですが――しかしその術は、「エロい感じ」になると男になり、涙を流すと女に戻るという、何とも奇妙なものだったのであります。

 それでも男女二つの顔を使い分け、日本軍人・田中隆吉の下で紫禁城からの皇帝溥儀救出ミッションを見事成功させた芳子は、軍にその実力(と体質(?))を認めさせたのですが――その彼女に対して、軍の司令部のトップ(あの有名人)が直々に下した新たな任務とは、誘拐犯に付け狙われているという新興財閥の一人娘・鮎川美禰子の護衛だったのです。

 ところが当の美禰子は才色兼備で銃も格闘もお手の物、そして極めて我儘で気まぐれと護衛泣かせ。それでも彼女の身を護るために奔走する芳子は、美禰子が自分と同様に冒険を求めていることを知り、彼女を囮に犯人たちを引きずり出そうとするのですが……


 というわけで、今回の芳子の任務は、アクションものの定番の一つというべきボディガード。それも警護対象が驕慢な美女とくれば、意地悪な言い方をすれば、展開はある程度予測できるようにも思えます。
 すなわち、人を人とも思わぬような護衛対象が、主人公の奮闘に心を改め、やがて惹かれるように――というあれですが、しかし本作は、そんな単純で、しかも男に都合の良い「じゃじゃ馬馴らし」の物語などでは決して終わりません。

 何故ならば、その護衛対象たる美禰子は、いうなればもう一人の芳子。彼女もまた、男社会の中で自分の自由――本当にやりたいことをやる機会を得るという意味での――を奪われ、女という枠の中に押し込められているのですから。

 もちろん美禰子は、芳子と全く同じではありません。彼女の方が芳子よりも、女性である自分を利用し、そして女性である自分を諦めている――すなわち、良くも悪くも女性という立場に自覚的といえるでしょう。
 それでも、美禰子が真に求めているものが何であるかは、芳子にとってはまさに自明のもの――言うまでもなくそれは、彼女自身が求めるものでもあるのですから。

 だからこそ、物語のクライマックス、ついに牙を剥いた誘拐犯たちと対峙した芳子が、美禰子にかけた言葉は、美禰子が、そして芳子が求めるものを何よりも的確に示した言葉として何よりも痛快で、そして感動的に響くのであります。
 そしてそれこそは本作が実在の人物を面白おかしく扱っただけの作品などではなく、一種象徴としての川島芳子を通じて、自分らしさを、自分が自分であることを求める女性たちへのエンパワメントを描く作品であることを示すものだと、私は信じます。
(もっとも、そのために変生男子しないといけないという矛盾が、本作をさらにややこしくしているのですが……)


 しかし、本作で芳子に比されるのは美禰子だけではありません。物語の背後で暗躍し、清朝復辟を企図する怪人物――死んだはずの西太后もまた、いうなれば自分を貫くために、自分自身の望むところを為すために、「男」であろうとした人物であります。
 芳子にとっては血縁者であり、そしてもう一人の自分――そんな相手を向こうに回して、芳子が如何に「男を見せる」のか。西太后のそれとは異なるであろうその答えを期待したいと思います。
(そして上で述べた矛盾の答えもまた……)


『川島芳子は男になりたい』第2巻(田中ほさな 講談社シリウスKC) Amazon

関連記事
 田中ほさな『川島芳子は男になりたい』第1巻 なりたい自分になるための冒険の始まり

|

« 出口真人『前田慶次かぶき旅』第4巻 開幕直前 いくさ人・武芸者オールスター戦! | トップページ | 『大江戸もののけ物語』 第二話「狙われたおよう」 »