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2020.07.25

『大江戸もののけ物語』 第二話「狙われたおよう」

 寺子屋で働くおように字を教える一馬。しかし母の薬代のカタに身売りを迫られていたおようは、一馬への想いを胸に吉原に行ってしまう。後を追う一馬とお雛だが、実はこの一件はおようを狙う妖怪・呪々ガエルの企みだった。一馬の頼みで廓に潜入した猫又も捕らえられ、絶体絶命のおようの運命は……

 『大江戸もののけ物語』第二話は、本作のヒロインであるおようの主役回。前回からその存在が暗示されていた妖怪・呪々ガエルに狙われた彼女の受難が描かれます。

 この呪々ガエル、邪気(この描写がなかなかに気持ち悪くて良い)を好んで食らうというのですが、人間に化けて郭のオーナー――いや主に収まり、目をつけた娘を郭に引っ張り込んで邪気に染め、その邪気を喰らうという何とも悪趣味な妖怪。
 それも邪気のない人間を堕として邪鬼に染めた方がより得られる邪気が大きいと、邪気のなかったおように目をつけ、彼女の母を術で病気にして手なづけていた医者に高い薬を売りつけさせ、借金のカタに自分の廓に――という無駄に生々しい企みを巡らせるという、夏休みに良い子が観る番組にあるまじき奴であります。
(邪気を食われて廃人になった女郎たちが廓の地下に閉じ込められ、後で売り飛ばされるというのもまた実に厭な設定です)

 この呪々ガエルを演じたのは石丸謙二郎ですが、正体を現した後の膨れ上がった見ようによっては滑稽な姿以上に、むしろ人間体の時の厭らしさが印象的で、漫画チックなキャラクターに妙なリアリティを与えていたといえるでしょう。

 一方の一馬は、おようを助けようとお雛とともに廓に乗り込むもあっさり用心棒に叩きのめされ、天の邪鬼・猫又・河童のトリオに泣きつくのですが、ここで本作における妖怪のルールがシメされることになります。
 すなわち、
「人間には妖怪は見えない」
「勾玉を手にした一馬か、その一馬と手を繋いだ者は妖怪を見ることができる」
「人間に化けた妖怪は人間でも見ることができる」
というもので、言葉にしてみると何ということはありませんが、それを映像として、妖怪が出たり消えたりする光景を描くのは、プリミティブではありますが、なかなか楽しいものであります。

 そしてまたこのルールによって、呪々ガエルが廓の主に収まっていてもバレなかったり、トリオの中で唯一人間に化けられる猫又が吉原に潜入する(まあ猫又が紅一点ということもありますが)という必然性が生まれるのにはちょっと感心しました。
 何よりもクライマックスのバトルで、呪々ガエルと戦っている(というか一方的に舌で首を絞められている)一馬にしか相手の姿が見えないでいるところに、天の邪鬼が遠隔からおように力を貸して――というシチュエーションは、天の邪鬼ならではの面倒な特徴を活かしたギャグも含めて、なかなか面白かったと思います。

 正直なところ、おようが普段着で先輩女郎の身の回りの世話をしていたり(その割りに次の日から客を取らされることになってたり)、一馬が廓に刀を持って殴り込めたりと、考証のことはあまり気にしない私が見てもこれはどうなのかなあ――と思うところは少なくないのですが、しかしこのように一種の能力バトル的なお話としてみると結構楽しいところであります。

 また、字を識らないという結構珍しい設定のおようが、一馬に教わった自分の名前を自分で書いて「私はこんな形をしていたんですね」というくだりや、彼女に対する猫又の言葉が(ノベライゼーションを読んだ限りでは)この先の伏線になっていたりいる点も好印象です。(細かいところでは、猫を呼べるという猫又の能力も愉快)

 ただ、もう一人の主役かと思われた天の邪鬼は、お堂に封印されていて外に出られないという設定のためちょっと歯がゆいのですが――どうやら強大な力を持っているらしい彼が前面に出ると一馬の出番がなくなりそうなので、これはこれで良いのでしょう。

 ラストにはその天の邪鬼を狙う大ボス・百鬼がご丁寧にキャプション付きで登場。果たしてその思惑は――と、全五話のためか早めに動き出した感もありますが、どう考えても常人を相手にしそうにないクラスのキャラが、どのように一馬に絡むのか、その辺りも気になるところであります。


 ラストの荒俣宏の妖怪講座は、猫又のイメージの変遷の解説。山中にいると思われていたものが、猫が身近になるにつれ町に出るとされるようになった――という的確かつ興味深い解説だったのは流石だと思います。


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